沖縄の伝統和紙『琉球紙』の一つ『芭蕉紙』の技術を現代に受け継ぐ『手漉琉球紙工房 蕉紙菴』の安慶名清さん。「『琉球紙』が沖縄に登場するのは1694年のことです。大見武馮武という人物が首里王府の命を受け、薩摩で杉原紙と百田紙の紙漉き技法を学び帰国し、城下の首里金城村で紙を漉いたのが始まりだとされています。『琉球紙』の歴史は、それほど古くありませんが、『芭蕉紙』という独特の紙を創造するなど豊富にある原料を使い、沖縄の風土に適した紙を造ってきたといえます」。そんな『芭蕉紙』は沖縄の代表的な織物『芭蕉布』と同じ『糸芭蕉』を原料に漉くため、繊維が強靭で荒く、非繊維素が多量に含まれる素朴で渋い地合いが特徴の沖縄独特の紙。安慶名さんは明治時代に途絶えていたという『芭蕉紙』を復興させた勝公彦氏より技術を受け継ぎ、『芭蕉紙』『琉球紙』の魅力を伝え続けている。「大学卒業後、5年間、会社員生活を送っていたのですが、人間関係のわずらわしさのない、自分一人の力でやっていける手仕事の魅力に惹かれ、勝氏のもとに弟子入りしました。そして、4年間の修行後、1988年に水の豊富なこの土地に工房を開いたという訳です」。以来、首里城の近くにある工房で、自然を相手に一枚一枚丁寧に『芭蕉紙』を漉き続けてきた安慶名さん。その紙は、安慶名さんの人柄を表すかのように、しなやかで温かみがあり、沖縄ならではの味わいを醸し出している。「一番は原料ですよね。国産の原料を使うことにはこだわっています。紙として仕上げてしまえば国産と外国産の原料の違いは殆ど分かりません。しかし、自分は最初から最後まで手で原料に触れていますので、その違いが感覚として分かるんですよ。要するに大事なことは、自分が自信を持って、『国産の良い原料で作っていますよ』と、お客様にハッキリと言えることなんですよね、嘘をつかずに」。仕上がりに差はなくとも、それでも自分自身にしか分からない微妙な違いにこだわる安慶名さん。そのプライドこそが匠が匠たる所以でもある。「国産の原料で紙を漉き、科学染料を使わずに植物染料のみで紙を染め、最終的には、その紙を板に貼り付けて天日干しをするという、その手間隙が自信になりますし、それを続けてきたことが、やはり自分の強みだと思っています」。そんな安慶名さんの座右の銘は『継続は力なり』。「手仕事の世界は体が覚えるものですからね。ここまで来ると辞められませんね」。1987年から講師として子どもたちに和紙づくりの魅力も伝え続けている安慶名さん。その熟練の技は確実に進化しながら後世に受け継がれていくことだろう。
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