鹿児島の伝統工芸品「薩摩琵琶」を現代に甦らせた塩田次郎さんを取材する。約300年前に、薩摩武士の文武奨励の為に生まれた「薩摩琵琶」は、漆を用いて仕上げられ、蒔絵や貝殻の装飾が施された美しい見た目とは裏腹に、奏でるというより叩くに近い演奏法で、質実剛健の薩摩隼人に受け入れられてきた。そんな「薩摩琵琶」作りは、製作の手間隙などから、戦後、一時途絶えていたが、古武道の宗家をしている塩田次朗さんの手によって復活。その塩田さんは現在、「薩摩琵琶」を作る唯一の職人として、薩摩隼人の伝統の火を守り続けている。「薩摩琵琶には仕様書や設計図などなく、既存の古い琵琶を解体したり、古い資料を掘り起こしたりと、全てが手作業で、完成させるまでは多くの月日を費やしました」。そうして、今では何人かの教え子もいるが、本格的な後継者はいまだ育っていないそうだ。「この薩摩琵琶作りは楽なものではありませんからね。特に漆は、塗ったり磨いたり塗ったり磨いたり、5回も上塗りをしなくてはならないのですが、それが終わるまでは飯も食わず寝る事もなく、夜中になっても夜が明けてもやり続けます。一度仕事を始めたら途中で止める事が出来ないので根気が必要です。
また、それくらい集中しないと使い出してからヒビが出るなど、人に渡してから失敗するんですよね。ですから自分が信用したい為にも徹底的にやるんですよ」。80歳をゆうに越え、何十年も職人としてやって来た塩田さんでさえ、つまるところ、ながらなどではなく徹底的に、一つの事に集中してやり遂げる事が大事だと言う。精神鍛錬や精神修行…塩田さんが作り上げた「薩摩琵琶」からは、そんな迫力が醸し出されていた。「薩摩琵琶作りは本当に難しいものですが、侍が作って侍が弾いていたという歴史が武道にも通ずるという事で、よし、それなら武道家として俺がやってやろうという気持ちです。それがあるから頑張れているんですよね」。
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