昔から落花生をはじめとする豆の産地であり、日常的に落花生を食べる文化が根付いている鹿児島で、半世紀以上もの間、豆菓子を製造し続ける『大阪屋製菓』の副社長、水野貴之さん。甘い醤油味の風味と、サクサクとした食感が特徴の『雀の卵』に代表される定番商品の他、近年は『Beans Nuts』のブランド名で、スタイリッシュなギフトボックスに収めた洋風豆菓子なども製造。駄菓子から酒肴まで、老若男女、世代を超えて愛される商品を提供する。
「今年創業60年を迎えた『大阪屋製菓』は、大阪で雑穀の行商をしていた祖父が、親戚を頼りに鹿児島に移住して興した会社なんですよ。鹿児島は米が作りづらく、雑穀を食べる習慣が根付いていたようで、それぞれの家庭で豆に黒砂糖をからめて食べるなど、もともと豆菓子が受け入れられる土壌があったんですよね」。そんな鹿児島において、豆菓子は砂糖を扱う店が作るのが主流だったそうだが、『大阪屋製菓』のように豆を扱う店が作る豆菓子と、砂糖を扱う店が作る豆菓子とでは、その味に決定的な差が出るという。
「豆菓子を作る行程の中で、豆を焙煎する作業があるのですが、豆は焙煎すると酸化が始まるんですよ。ですから焙煎した豆を仕入れてから砂糖や醤油をからませる砂糖屋さんと、焙煎してから直ぐに砂糖や醤油をからませる豆屋さんとでは、豆の鮮度に大きな差が出るという訳です。私たちは醤油も自分たちで調合するなど、自社でやった方が絶対に美味しいという信念をもって、大メーカーには真似できない手間隙をかけて豆菓子を作っています」。そんな『大阪屋製菓』では、その手間隙を価格に転嫁することなく、定番商品の値段などは20〜30年間も変えていないという。
「子どもたちが買ってくれる駄菓子という商品の特性上、いくら原材料費などが高くなろうとも、値段を上げることはできませんよね。ですが、その価格を維持する為に、原材料を変えるようなことは絶対にありません。価格、原材料、品質を変えずにやっていくことは、私たちの意地ですね」。そんな薩摩隼人の意地によって、鹿児島の人々の郷愁を誘う郷土菓子として愛され続ける『大阪屋製菓』の豆菓子たち。その豆菓子は水野さんの感性により、いま新たなステージに羽ばたこうとしている。
「いま『Beans Nuts』というブランド名で、カシューナッツやピスタチオなどを使った新たな豆菓子のシリーズを展開しているのですが、それは洋菓子の『マカロン』がヒントだったんですよ。『マカロン』の原材料は豆菓子と似ているのに非常に華やかですよね。一方、豆菓子は差し上げた時に相手の方から『あ〜豆か』みたいな、微妙な反応をされることがあって、そこで豆菓子の価値を再構築して『マカロン』のような華やかなステージに持っていこうと考えた訳です。例えば洋菓子のパティシエさんは、子どもたちの憧れの職業ですが、豆菓子の職人というのは仕事も想像つかないでしょうし、なりたいという子どももそんなに多いと思えないですよね。しかし、豆菓子が華やかに変わり、皆さんから認められることで、社員のモチベーションも上がりますし、豆菓子を作っている誇りも感じられるようになりますよね」。お菓子は人を喜ばせる、ワクワクさせる最たる食べ物だからこそ、味のみでなく、華やかであることも忘れない水野さん。そんな『Beans Nuts』の豆菓子をあげた時、人は駄菓子屋で心トキめかせている、まるで子どものような笑顔を見せてくれる。
「商品を差し出しただけで、お客様から興味を持ってもらえたら、こんなに営業にとっても楽なことはないんですよ。しかし、それは当然、美味しいモノでないと意味がありません。味が美味しいということは食品にとって当たり前のことですからね」。そんな水野さんは、今後は豆菓子を日本から海外にも発信していきたいという。『Beans Nuts』が世界中の人々の郷愁を誘う味として愛されるようになるその日まで。
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