有田の里山で、自給自足さながらの生活を送りながら有田焼を製作している「矢鋪與左衛門窯」の矢鋪與左衛門さん。機械ロクロや全自動の型モノで作られた器が中心の有田焼の世界で、今なお伝統の手ロクロ、蹴ロクロの技法を駆使。高度に熟練した技能者を認定する佐賀マイスターに認定され、有田窯業学校などで、その伝統の陶技を後進に伝えている。「有田泉山で良質の磁器原料が発見され、日本で最初に磁器が焼成されたのが17世紀初頭です。有田はその後、400年近く器を作ってきた日本有数の歴史ある伝統産地なんですが、それを支えているのが手ロクロに代表される陶技なんです」。矢鋪さんは約4年前に全国の窯元を行脚。有田は他所の窯元に比べて機械に頼り過ぎている為、伝統の陶技が廃れてしまっていることを実感したと言う。「やはり手で作ったものしか、手の温もりのある、人を癒す器は生まれてきません。『銀河鉄道999』の主人公・哲郎が、機械人間になりたいと願って旅立ったのですが、結局人間の体がいい事に気付いたように、やはり人間が作り出したモノの素晴らしさは機械では再現出来ません。ですから、どうにかして、この伝統の技術を後進に伝えていこうと今奮闘しています」。そんな矢鋪さんの作る真っ白な白磁の器は、飾り気のない素朴な佇まいで見る者を癒してくれる。「職人技というのは、同じ寸法のモノを作り続けることの出来る技術だと思っています。機械に頼るのではなく、それを自らの手で行うことは非常に難しいことですが、だからこそ挑戦したくなる。自らの手で無から形を生み出すことは、笑いが出るほど楽しいことですよ」。そんな有田焼の一連の工程の中でやっかいなのが土の重みによる周囲のたわみ。その為、ロクロ形成後に「形直し」が必要となるが、湿度など天候によりたわみの度合いも変化する為、それらを計算に入れて形を整えていくことになる。「やはり経験がモノをいう世界です。何百回、何千回とモノ凄い練習を重ねて作ってきた経験を生かして器に向き合っています。よく有名な作家さんたちが、作品を作る時は無心になるとか言いますよね。でも私の場合は、どうもそういうことにはなりません。器を作る時は、一個一個... 土が多かった、土が少なかったと必死で考えています。他の事を考えていたらダメですが、常に頭で考えながら手を動かしています」。そんな矢鋪さんは同じように「作品に迷いがある」などという抽象的な表現も嫌う。「よく偉い先生が作品を見て、迷いが出てるの何のって言われますが、器というのは自然にあるべき形に収まって出来るモノなんですよね。それを迷いがとか言われても、私自身、どこがどう迷っているのか理解出来ません」。矢鋪さんが作るのは、人の手によって生み出される、人の心が通った、人の温かみのある器。言葉で飾ったり、遊んだりせず、様々な感情を込めて作られる矢鋪さんの器は、シンプルに美しく、人の心を揺さぶる、癒してくれるモノだった。
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