奄美大島の伝統的な織物・大島紬の約30工程の一つ泥染めを専門に行う「金井工芸」の金井一人さん。「地球で染めました」というキャッチコピー通り、奄美大島に自生する植物・シャリンバイと、鉄分を豊富に含んだ土の成分だけで染められる、その色は二つと同じ色のない独特の味がある。そんな泥染めの匠である金井さんは、15年程前に「イッセイ・ミヤケ」の作品を染めたのを皮切りに、今はジーンズのような洋服以外にも器を染めるなど、その仕事の幅を広げているが、「今は着物の時代ではないですからね。大島紬だけでは厳しいのが現状です」と、大島紬を取り巻く環境の厳しさを教えてくれた。「大島紬以外のモノを染め始めた当初は、皆さんに『泥染めの安売り』だと、えらいしかられました。でも、泥染めと大島紬というのは一対なんで、大島紬を宣伝すると泥染めもついてくる。泥染めを宣伝すると大島紬もついてくると、相乗効果があるんですよ。だから、新しく伝統を作るのもいいんじゃないかという事で始めたんです。現状では、大島紬も泥染めも、やっていく以上は、多少違う事もやらないと守っていけないと思うんです。もちろん大島紬が一番です。これは世界に誇れる織物ですからね」。時代と共に、そういう色んな人ともコラボレーションして行く事は、決して泥染めの安売りじゃない。大島紬という、どっしりとした芯を自分の真中に据えてチャレンジする。そんな度胸ある金井さんのような人が、新しい伝統を作っていくのだろう。「泥染めは、自然の成分を使う為、材料が常に一定ではありません。ですから勘とセンスが凄く大事な世界なんですよね。ですから何年やったからではなく、失敗を繰り返し、そこから学んでいくものなんですよ。失敗を楽しめる人間が一番向いているのかも知れませんね」。今「金井工芸」には、金井さんの息子さんを含め、お弟子さん達が泥染めで、様々なモノを染めようとチャレンジしている。数多くの失敗を糧に、泥染めの新しい伝統が生まれる日もそう遠くない事だうろう。
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