沖縄の赤土に白色象嵌を施した『三島手』の技法に、黒い釉薬を併用したオリジナルの技法『琉球花三島』を確立した『琉球花三島窯元 親川陶芸 唐白窯』の親川唐白さん。『琉球花三島』が『三島手』と異なる点は、独特の黒により生まれる重厚かつ優雅な雰囲気にあり、その作品は全国の茶人からも注目を集めているという。
「僕は29歳まで画商や洋服店の営業などの仕事をしていたのね。でも『あれ?俺のやりたかったのってこれ?』って自分の進むべき道に疑問を抱くようになって、陶芸の世界へ足を踏み入れたんですよ。もともとアートに関わる仕事がしたいという想いは、いつも心の片隅にあったんだけど、一番はアメリカに留学した時にネイティブアメリカンの作品を見て、土の魅力に触れたことが大きかったのかも知れませんね」。その後、親川さんは「自分にしかできない焼物を作りたい」と、師匠を持たずに独学で様々な焼物の手法を研究。15世紀に朝鮮半島で生まれた『三島手』の技法を基に『琉球花三島』を生み出したという。
「以前、メキシコで世界一大きい焼物を見た時に、それを超えるモノを作りたいと思ったんだよね。でも物理的に超えるのは難しいので、地球より大きい宇宙をテーマに作品を制作しようと。その中で『三島手』の技法を知って、これに黒い釉薬を併用すると宇宙が表現できるんじゃないかと思ったんですよ」。そうして親川さんは自らが確立した『琉球花三島』の技法を用い、黒い釉薬で発色させた素地の表面に星を表現することに成功。その煌めく星が不思議な魅力を放つ作品『銀河シリーズ』は、国内を始め、パリやウィーンなど海外の品評会でも様々な賞を受賞するなど、世界的に評価されている。
「この釉薬の世界は突き詰めると化学の世界なんだけど、私はそんな学者的なモノ作り、理論尽くめで物事を進める癖をつけたくないと、いつも思っているんですよ。僕たちが一つの物事を突き詰める為に、理論を尽くして理論を埋めながら仕事をするっていうのがあるじゃない。その方が結果を得やすいですからね。その一方で、人は理論尽くめで作られたモノを見て、果たして美しいと思うのかな〜と思うんですよ。僕らモノを作る工芸家は、いつもその狭間で揺れ動きながら鎬を削っている訳ね。理詰めの中では、ともすると感性が消去されてしまうでしょう。自分の感性をどこまで作品に転嫁させるかが僕たちの仕事。だから理詰めだけで仕事をしてしまうと『あの人の作品、イイけどね』っていう風になってしまうじゃないですか。『あの人の作品、意味はよく分からんけど、何か使っていて面白いよね』って言われた方が楽しいですからね」。理論尽くめのモノに出会った時に人がするのは感心であって、理論を超えたモノに出会った時に人がするのが感動だというが、理論を大事にしつつ、その上で、理論では計り知れない不思議さ、自らの感性も大事にする親川さんの作品は、まさに人を理屈抜きに感動させる力を持っていた。
「特に今の時代っていうのは、理詰めで仕事をしなきゃ成り立たない社会になっているでしょう。せめてこうした世界だけでも理詰めでなくてもイイんじゃないかと。言葉ではなくて作品で伝えるのが、僕たちの仕事ですからね。でもその結果、失敗は多いですよ(笑)」。そうして数々の失敗を重ねながら、独学で自らの道を切り開いてきた親川さんは、様々な作品を見ることで自らの感性を磨いてきたという。
「他人の作品を見ると、どうしても真似をしてしまう、影響されてしまうから見ないという話をよく聞くけど、真似をしないよと自覚しながら見ることと、無自覚で見ることは違うんですよ。『俺は似せないよ、真似しないよ』と思って見ていると、『あっここだ、ここは真似しちゃいかん』っていうポイントで分かるじゃない。たった一本の指先で様々な表現が可能な僕たちの仕事は、知らず知らずの内に真似をしてしまう世界なんですよ。そんな中で世間を知らないと、『俺がやった、俺がやった』と言ってしまうじゃない。でも、それを世間に出したら『100年前からやっているよ』って。そう言われるのが怖かったんで、若い内から一流のモノを見て回りました」。真似をしてしまうのは自覚がないからと、他人の作品を見ることをためらわない親川さん。無知ゆえの真似を恐れ、一流の教材を前に自らの世界観を広げてきた親川さんの作品は、だからこそ、どの作品とも一線を画す、唯一無二の魅力を放っていた。
「僕は見ることによって勉強をしたかったからね。小さな工房に朝から晩まで籠って一人の世界に浸るのもイイかも知れないけど、それではいい職人にはなれるけど、いい陶芸家にはなれないと思うんですよ。だから今考えてみると、外に出て様々な作品に触れることで、少しずつだけど学んではいたんだろうな〜と思いますよね。だって過去の作品を見ると、今の方がイイと自分では思っているからね(笑)」。そんな親川さんの座右の銘は、『モノはよく観なさい』だという。
「例えばぐい呑みを見て、ただ見るだけではなく、その背景を想像する、形の奥底をよく観察することって楽しいし、自分の世界観を広げてくれるじゃない。だから何事も“よく見る”ではなく、“よく観る”ことが大事だと思うんですよね」。
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