天文館に店を構えて約20年、鹿児島の旬の魚を活かした寿司や海鮮料理、薩摩料理を取り揃える寿司の名店『うお処 天』の主人、壹崎裕之さん。「父が早くに他界した後、母から寿司職人になることを勧められ、鹿児島の名店で修行するようになったのが始まりです。5年で寿司を握れるようになり、10年で接客の奥深さを知り、徐々に寿司屋が楽しくなっていきました」。そうして平成15年、かねてからの夢であった鹿児島の一等地、天文館に自らの店を構えることを実現。天文館の天と商売が天まで上がるようにとの想いを込めて、店の名前を『うお処 天』と命名する。「カウンター越しにお客様から色々な話を聞くことが出来るので、カウンター業は本当に勉強になります。また、『美味しい』の言葉を直接、届けて頂ける。私どもは、その言葉を聞きたくて仕事をしているようなものですからね」。黒潮の恩恵を受ける鹿児島は、ブリやカツオなど多くの水揚げを誇る魚の他、それぞれの浜でも様々な種類の魚が獲れる。「豊かな種類の鹿児島の美味しい魚を一人でも多くのお客様に味わって頂きたいので、新鮮で良質の天然の魚を少しでも安く仕入れることができるように日々、努力しています。また魚だけにこだわるのではなく、例えば、キレイに器に盛ることはもちろん、酢飯の握り方も、カウンター越しと座席、出前と、それぞれ握り方を変えるなど、自分が食べてみて一番美味しいと思える味を追求しています」。そんな壹崎さんの店は、一般的に敷居の高いイメージの強い寿司屋特有の固苦しい雰囲気は一切なく、心地よい空気が流れている。「頑固というイメージではなく、お客様と楽しく会話をしながら握り、お客様に楽しく寿司を食べて欲しいという想いがあるんですよね。やはりカウンターで会話をしながら、お客様が寿司をつまむというスタイルが、本当の寿司屋のあるべき姿だと思っています。その方がハートがあるじゃないですか。敷居が高いのも結構ですが、やはりお客様が、『また、この店に行きたい』と思えるように、また、若者でも気軽に食べに来て頂けるように、そんな店を作っていきたいと思っています」。どんなに旨い料理でも、しかめっ面で食べては不味くなる。敷居の高い寿司屋なんて面白くないと、客に楽しく食べて欲しいと願う壹崎さんの心配りが行き届いた店には、もちろん、笑顔が溢れていた。「いつもお袋が言ってたのですが、笑顔というのが一番好きな言葉です。やはり笑顔が出ないと、お客様も面白くないし、周りも面白くありませんよね。ですから、『常にどんなことがあっても笑顔が大事だよ〜』と言っていたお袋の言葉が、やはり、いつまでも自分の胸の中にあるんですよね」。
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