由布岳を望む金鱗湖のほとりにある、大分の湯布院で最も歴史のある老舗旅館「亀の井別荘」。そのオーナーの中谷健太郎さんは、湯布院の名前を全国的に広めた立役者だ。そして、日本の短期滞在型のスタイルに疑問を抱き、ドイツで学んだ、ゆっくりとした長期滞在型の街作りを目指していた。そして、それは「亀の井別荘」の食事のスタイルにも表れている。「自分の旅館に泊まっている人が、必ず自分の旅館のレストランで食事をしなくてもいいようにと、オープンにしたんです。オープンにするから出て行く。あと空っぽになってどうするって話もあったんだけど、心配しなくても、今度は他所が同じ事をすると、他所に泊まっている人がウチに入って来るんです。」中谷さんは、そうすることによって、湯布院を訪れた人が飽きることなく、長期滞在出来ると言う。そして、その発想は、街が活性化することにも役立っているそうだ。「オープンにすると、お客さんが街の中を歩き始める。歩き始めると散策客を目指して新しい資本が入って来る。そして新しいお店が出来るという風に、街が自動的に活性化して行く訳です。自分の所から出さないぞって守りに入ったら、どこもが収縮して行く訳ですね。街が人を受け入れているので、旅館はそのごく一部だぜって言う話が、僕らが主張している街の姿ですね」。湯布院という山に囲まれた静かな街にいながら、匠の街の活性化に対する思いは、ほとんど経済学の域に達している。そして、そんな中谷さんは、「湯布院」というブランドを、どのように考えているのか教えてくれた。「大事にしているモノが見えるというのがブランドですね。それは沢山の外からの力に、あるいは歴史的な力に支えられてるんです。だから、僕は地域ブランドちゅうのは、非常に何かこう閉塞的な、俺達だけで地元で頑張るみたいなことがあるけど、あれは間違いだと思うんです。本当はブレンド力だと思うんですよ。だから映画祭や音楽祭も別の見方をすると、あれはブレンド力なんですね。それが湯布院のブランド力になってまた出て行く。他所の大根が湯布院にあっちゃいけないんじゃないかとか、そんな馬鹿な問題であんまり悩まないで、ドンドン良いモノは入れて、それをどこまで、湯布院でなければ手に入らないっていうような、ブレンドの効果の非常に高まったモノにするかだと思うんです。違うモノに出会ってワクワクする…。それが何か僕らのエネルギーの元でね、何かを生み出すと思うんですよね」。インテリアや洋服も、自社の製品というより、そのセレクトのコンセプトやセンスで有名なお店がある。素材も大事だけど、一方で組み合わせのアレンジという人のセンスや発想、アイディアがブランドになる時代だ。湯布院の街が…人が…そうなっていくアイディアとエネルギーを持つ匠だった。
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