福岡のカフェブームを牽引する『CAFE SONES』のオーナー、木下雄貴さん。
木下さんは1998年に福岡市薬院に創業して以来、『カフェウィーク』を始めとする数々のカフェイベントを仕掛けるなど、カフェ黎明期の福岡に『個性派カフェ』というスタイルを確立。2013年には『佐賀大学美術館』にも大型カフェをオープンする。
「創業当時の薬院は飲食店が少ない上に治安も悪く、周りからは絶対に失敗すると言われていました。でも、そんな環境だったからこそ、周囲に流されることもなく、自分のペースで仕事ができたんですよね」。それから18年を経て、現在、店舗の周辺は、住宅、オフィス、店舗が、1対1対1の割合へと変化。カフェを経営する上で、とても理想的な環境となったという。
「僕は薬院を“新しい下町”と呼んでいるのですが、隣同士がとても仲が良く、街自体に本当に人が集まるようになったんですよね」。数々のイベントなどを通じて、そんな薬院をより良い環境に育て上げた立役者でもある木下さんだが、創業前は福岡市の繁華街、大名のバーでバイトをする傍ら、役者として舞台に立っていたこともあるという。
「本気で役者で食べていこうと思っていましたので、役者である自分の限界を知った時は本当にショックでした。でも、それなら役者たちが表現できる場所を自分が作ろうと。そんな想いでカフェを創業したんですよね」。そうして木下さんは芝居のみならず、落語、映画の上映など、毎年60を超えるイベントを企画。様々な人々が交流する文化の発信基地となれるよう、カフェの営業を続けてきたという。
「先日、自分で手掛けたイベントの数を数えてみたのですが、18年間で千数百回を超えていたんですよ。でもそれは、カフェというのは文化をつくっていく場所だという想いが、僕にあったからなんですよね。例えばラーメン屋さんや、うどん屋さんのような専門店でしたら、そのモノを食べに行くという目的がハッキリとしています。でもカフェは食事を出したり、お酒を出したり、お茶を出したり、デザートを出したりと、様々な要素あって、本当にサービスの幅が広いんですよ。ですからここを幅広い魅力で様々な人々が集まるサロンのような環境にしたいと、18年間、ずっとチャレンジをしてきました」。カフェ発祥のヨーロッパの名店たちがそうであったように、様々な仕掛けで人と人とを結び付け、カフェから新しい文化を発信し続ける木下さん。そんな木下さんの自由な発想で面白いコトを追求する姿勢が、多くの人々をこの店、そして薬院という場所に惹きつけていた。
「カフェとしてのプライドは?と聞かれると困ってしまうんですよ。やはり食やお客さんというのは時代と共に変化していくモノですから、それに柔軟に対応していく方が、色々と面白いコトができますよね。ですすから僕は自分の可能性を無限に広げていけるように、プライドといったモノには固執しないようにしています」。そうやって木下さんは時代に寄り添い、客からの様々なオーダーに柔軟に対応。現在はケータリング事業も手掛けるようになったという。
「福岡でライブを行うアーティストのフードサポートや、会社のレセプションのフードコーディネートなど、自分たちに求められることは何でも対応していこうと。そんな様々なオーダーに対応できる柔軟性がカフェの強みでもあると思っていますからね」。そんな木下さんのカフェには昔、働いていたスタッフたちも常連客として訪れるという。
「長く続けてきたからこそ、今は昔のスタッフを含め、お客さんと共に歳を重ねていくことが1番の仕事になりました。お客さんは、ここを止まり木にして旅立っていく。いつまでもそんな店でありたいと思っています」。ちなみに、『CAFE SONES』の人気メニューといえば創業当時から人気のカレー。様々な客との出会い、別れを通じて、日々変化する福岡の街を見続けてきた木下さんが作るそのカレーは、まるでお袋の味のように、福岡の人々の心に刻まれていた。
「大きな目標はありませんが、これからもちゃんと仕事をしながら、いかに自分がワクワクできるか。面倒だけど楽しい。そんなコトをこれからも追及していこうと思います」。そう語る木下さんの好きな言葉は『答えは一つじゃない』という、まるでカフェの本質である、その幅広い魅力にも通じる言葉だった。
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