匠の蔵~words of meister~の放送

対馬しいたけ生産者【対馬しいたけ 長崎】 匠:永尾賢一さん
2013年02月09日(土)オンエア
『森のあわび』と称され、全国的に高く評価されている対馬の名産品『対馬しいたけ』の生産者、永尾賢一さん。椎茸の発生に適した原木が豊富な対馬の椎茸栽培の歴史は古く、江戸時代に大陸から飛来した胞子が、風倒木などに付着したことが始まりだそう。対馬藩の古文書には、幕府への献上品として最上級の椎茸を贈ったことが記されている。「対馬しいたけは、江戸時代から無農薬で自然のままに育てる原木露地栽培が続けられています。椎茸の栽培に適した自然環境と、そのような生産者のこだわりが相まって、肉厚で風味豊かな椎茸が育つという訳です」。『椎茸マイスター』の称号を持つ永尾さんは昭和48年に故郷の対馬にUターン。以来、約40年に渡り、味、歯応え、香りとも天下一品の椎茸を生産。その椎茸は『林野庁長官賞』を始め、数々の栄誉に輝いている。「全国で数多くの品評会が開かれていますが、表彰されるような、いわゆる姿形の良い、見てくれの良い椎茸の殆どは、菌床を使いハウスの中で育てられたものなんです。しかし、それが本当に椎茸本来の持つ味に繋がっているのかというと疑問が残りますよね。人間が手間暇をかけるほど、また、手間暇をかける回数を増やすほど、椎茸本来の味から遠ざかっていくのではないのかという想いがあったものですから、私たちは原木を使い、露地で自然に近い椎茸を目指していこうじゃないかと思ったという訳です。しかし、誤解されては困るのですが、原木露地栽培ほど難しく、時間がかかります。そういった意味では、本当に手間暇がかかるのは、原木露地栽培の方なんですよね」。その手間暇は、人工的に早く、美しく成長させる為にあるのではなく、椎茸が持つ本来の自然の旨味を引き出す為にある。見た目を重視しがちな品評会において、それでも旬の味に特化した椎茸で勝負し続け、数々の栄誉に輝く永尾さんの姿は格好良い。「やはり旬のモノは旬に食べるのが、人間の体には一番良いと思っています。『自然から遠ざかるほど病気が近づく』という言葉もあるぐらいですからね」。そんな永尾さんには、食べ物を作る農業者としての一つの理念がある。「どんな食べ物でも同じだと思うのですが、やはり自分たちが食べてみて、『うん、コレとコレならどこにやっても恥ずかしくない』というモノでないと、作らない、売らないという気持ちで取り組んでいます。生産者は流通に乗せれば終わりという感覚が強いものですが、やはり、食べ物ですから市場に任せきりでは、本当の農業者としての理念から外れているのではないかという想いが、常にありますよね」。食べ物である以上、消費者の口に入るまで責任を持っていたい。そんなプライドのもと、旨いと喜ぶ、消費者の姿を想像しながら育てられた永尾さんの椎茸は、その想像通り、多くの人の口を喜ばせていた。「対馬の小学校の先生の子どもが、今まで椎茸を食べなかったそうなんですよ。そこで、私の椎茸を送ったんですけどね。その子どもが『椎茸って、こんなに美味しかったんだ』と言って、パクパク食べたそうなんです。一番、味に敏感な子どもが美味しいと言ってくれたことは、何より私にとって嬉しい出来事でしたね」。

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