匠の蔵~words of meister~の放送

薩摩ボタン絵付師【薩摩ボタン 鹿児島】 匠:室田志保さん
2009年02月14日(土)オンエア
「篤姫」の時代の幕末の薩摩で生まれるが、その絵付があまりにも繊細で手がかかる為、現代では幻となっていた鹿児島の伝統工芸品「薩摩ボタン」を甦らせた絵付師・室田志保さん。1.5〜5センチ程の素焼きした陶器のボタンに、1ミリ以下の線で構図を整え、花や動物、幾何学文様などを描き込む。「薩摩ボタンは当時、パリ万博で紹介され、欧米の収集家の間では人気が高かったのですが、日本では殆ど流通していなかったそうです。私もパリの博物館で初めて実物を見たのですが、機械では出ない線の細かさや勢いに魅了されました」。薩摩焼の窯元で茶道具の絵付師として10年間過ごし、その後、イタリアや人間国宝の九谷焼の陶芸家の下で修行し独立。垂水市の豊かな自然に囲まれた山里にアトリエを構えた。「修行時代は、常に本物だけをキチンと見なさいと教えられました。偽物を見てしまうと残像として残るので、デザインを迷った時に邪魔をしますからね。このような田舎に住んでいると、自然の中のモノからデザインのアイディアを貰うような感覚になるんです。例えばカマキリ一匹でも、巣を作る所や餌を食べる所など、色んなモノを見せてくれますからね」。そんな室田さんは、「私の仕事は薩摩ボタンの復刻ではなく復活です」と、伝統をヒントにしつつも「薩摩ボタン」の歴史に新たなページを加えている。「当時の薩摩ボタンというのは、浮世絵など江戸末期の頃の外国人たちに向けてアピールするような絵柄が多かったのですが、そういうモノは今の時代には合わないのかな〜と思っています。古くて新しいモノという訳ではありませんが、まず県民の人達に知って貰う為には、薩摩ボタンを付けた時に、素敵だな〜と思えるモノを意識してデザインする事が大切だと思います。やはり当時と同じモノを作っても自分自身が燃えないですからね。薩摩ボタンを今風にアレンジというか、自分の感性がちゃんと入ったモノを作りたいですからね」。最近は燃えるという言葉自体、あまり聞かなくなったような気がする。シンプルに燃えるからという理由で、復活にこだわる室田さん。燃えるという大前提がなければ、新しい何かを成す為す事など出来るはずはない。「納得出来なくても、その次に繋がる燃えカスみたいなモノがあればいいと思うんです。燃えなくて納得出来ないモノが出来たら燃えカスも残らず何も得るモノがないけど、燃えていたら燃えカスが残るので、次はもっと発展的に良いモノが出来て行くと思っているので…」。室田さんはこの冬、母となったそうだ。「出産を経験し母となった事で、今後どんな作品が生まれるのか自分自身も楽しみです」。小さなボタンの中に室田さんが描く宇宙は、これからも益々広がっていく事だろう。

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