焙じ茶を練りこんだ生地に上品な甘さの餡子を包んだ「お茶々万十」で知られる、老舗和菓子店「お茶々万十 富貴」の二代目・松本弘樹さん。父である初代の言葉「楽しくなければお菓子じゃない」という理念を受け継ぎ、新しい事、いつも富貴からと、和菓子の伝統を重んじながらも、和菓子の常識にとらわれない新しい商品の開発や多岐に渡る活動を通し、既存の和菓子業界に新しい風を吹き込んでいる。「現在から見ると、過去は全て一つに見えちゃいますが、今や定番となっている伝統ある和菓子というのは、100年前に桜餅、200年前にカステラといったように、長い歴史の線の上にポツポツと登場して来ているんです。だから私は常にチャレンジをし続けたものの集大成が、今、伝統として残っているだけだと言っています。現時点での最先端のものをやり続けるという事は、伝統というバトンを貰ったんだと思っているんですよね。私はその内の一つが、苺大福だと思います。苺大福の登場は、間違いなく私の商品開発のターニングポイントになりましたね」。時代時代でアグレッシブにやって行く事が、歴史を続けて行く事。過去に固執してしまうという事は、歴史を守るのではなく、止めるという事になる。そんな松本さんは、ナタデココを入れた「水ぜんざい」など、和菓子の常識にとらわれない、数多くのヒット商品を生み出している。「和菓子とは、和心を持った人間が表現をするお菓子なんですよ。日本人が海外で、チャイナタウンやコリアンタウンのようにジャパンタウンを作らない理由は、何でも食べられるからなんです。日本人は、夜、カレーを食べて、朝、味噌汁を食べて、昼、パンを食べてという具合に、何でも受け入れる力を持っていますよね。だから、和の心を持った人間が考えたモノっていうのは、すべて和のテイストで考えられると思っているんですよ。だから、私達の好みの中に生クリームがあれば、生クリームを題材として使って問題ないと私は思ってるんですよね」。そんな松本さんは和洋折衷という言葉は、この平成の時代において無くなったと言い切る。「この平成の時代、何を持って和洋折衷とするのか分からなくなりましたよね。日本の食文化は、今、どんどん変わって来ています。だから私達も変わらざるを得ないという状況なんです。ちなみにニューヨークでは、シュークリームは和菓子なんですよ。ビックリすると思いますけど、それは日本人の頭の中に、日本には洋菓子屋さんと和菓子屋さんがあって、シュークリームは洋菓子屋さんが作っているっていう思い込みがあるからなんですよね」。日本の和という文化がしっかりしたもので、この日本に根付いているからこそ、他の文化にもちょいちょい手を出したがる。そして積極的に化学反応を起こし、和をベースにした様々なものが生み出されている。和菓子を通してみても、日本の和と言う文化は面白い。
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