畜産の盛んな都城市で、古くから地元の人々に食べられていた郷土料理をヒントに加工食品を開発する『ばあちゃん本舗 株式会社』の代表、小園秀和さん。小園さんの祖母の味を再現させた『ずりみそ(鶏の砂肝の味噌漬け)』や、当時の東国原知事が命名した『ブーブータン(豚タンの味噌漬け燻製)』など、どこか懐かしくて新しい数々のヒット商品を開発。現在は約40種類もの加工食品を全国に発信しているという。
「私の祖母は厳しい人で、戦争を体験しているものですからモノをダメにすることを一番嫌っていました。ですからどんな食材でも捨てるところはないと、鶏の砂肝なども野菜の漬物と同じように味噌に漬けて美味しく食べられるように工夫していたんですよね。私はそんな祖母の味を残したい、子どもながらも美味しいと思って食べていたその味を、いつか再現したいとずっと思っていたんですよ」。そんな小園さんは高校卒業後、宮崎の『シェラトンホテル(現フェニックスホテル)』や東京の『メトロポリタンホテル』の洋食部門で調理師として勤務した後、父親の営む自動販売機のオペレーター会社を継ぐ為に帰郷。それを機に『ずりみそ』の商品化に取り組んだという。
「当時、地元の高城町商工会に相談したところ、新商品開発を支援する国の補助制度というモノがあると教えてくれたんですよ。そこで商工会の青年部のバックアップを受けて『肉のおつけもの産品開発プロジェクト』を企画して『ずりみそ』を商品化することになりました」。そうして小園さんは、『ずりみそ』が完成した平成19年に『ばあちゃん本舗』を創業。地域のお年寄りたちに郷土料理のレシピを聞きながら商品の種類を増やし販路も全国に拡大。平成27年に株式会社に移行したという。
「祖母は自分の子どもの為に片方の腎臓を提供するなど、本当に優しい心をもった人だったんですよ。その味を残すことができて本当に嬉しく思っています。ただ祖母の味をそのまま再現するだけでは現代の人に受け入れてもらえませんから、時代のニーズに合わせて多少のアレンジは加えています」。そんな小園さんは商品を開発する上で、二つの信条があるという。
「私は味に味を重ねません。人間は同じ味ばかりを食べていると、いつしかその味に慣れてしまいますよね。例えば九州の人が関東に行けば、豚骨ラーメンではなく醤油ラーメンを求めるようになるんですよ。今の時代は食べ物が豊富過ぎてインパクトのある刺激的な味が世の中に溢れていますよね。ですから子どもたちが味音痴にならないように、少しでも素材の良さが生かされた食品を広めていきたいと。その為には決して味に味を重ねずに、素材自体の味がちゃんと分かる食品を作っていきたいと思っています。そしてもう一つは手間をかけるということです。祖母の料理がそうだったように、料理は色々と工夫して手間をかければ、食べにくいモノでも食べやすくなるということを提案したいんですよ。例えば牛や豚などの内臓にしても手間をかければ美味しく食べられますよね。そうやって値段の安い部位にも付加価値を付けてあげることができれば、生産者も喜びますし、何より食材を無駄にすることがありませんからね」。それは小園さんが子どもの頃、祖母が家族の健康を考えて、家族が美味しく食べられるようにと作ってくれた思いやりの味。そんな味を残したいと思う小園さんの決意は、その屋号にも表れていた。
「やはり『ばあちゃん本舗』という名付けた以上は、祖母の想いや味からかけ離れたモノは開発できませんよね。昔の人は素材を生かした体に優しい味を大事にしてきましたので、これからもそんな味を残したい、作っていきたいという想いを貫き通そうと思っています」。そんな小園さんの座右の銘は、まさに『ばあちゃん本舗』のコンセプトそのままの『温故知新』という言葉。昔の人々の知恵を生かし、現代の日本の食文化を正しい方向に導こうとする小園さんの加工食品は、どれも食べ飽きない、口の中にいつまでも余韻を残す優しい味をしていた。
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