匠の蔵~words of meister~の放送

鮑養殖 伊賀上芳巳【鮑 大分】 匠:伊賀上芳巳さん
2010年04月10日(土)オンエア
黒島を望む、透き通るほど美しい臼杵市佐志生の海で、約30年前からアワビの養殖を手掛ける伊賀上芳巳さん。はえなわ漁船で鯛やフグなどの魚を獲っていた伊賀上さんが、アワビ養殖を始めた理由は、「漁業は自然が相手ですから、大漁の時もあれば、まったく振るわない時もあるなど不安定ですよね。今の漁村には若い人がいなくなりましたが、そうしたことも理由の一つだと思うんですよ。ですから、若い人たちが漁業で安定して食べていけるように、これからは獲る漁業だけではなく育てる漁業も必要だと考えたからなんです」という想いから。そうして視察を繰り返し養殖技術の講習会にも参加した伊賀上さん。その時に「漁業は農業に比べ20年遅れている」という講師の言葉に奮起して、今ではメガイアワビとクロアワビの中でも北に住むエゾアワビを掛け合わせたハイブリッドを養殖。肉厚で柔らかという特徴を持つ10センチを超える大型のアワビを出荷しているという。しかし近年は、地球温暖化の影響が示唆されている赤潮の被害が急増。3年に1度はやって来るという、その赤潮にも対応できる新たな技術と理論の確立が必要となってしまったそうだ。「一昨年に初めてというくらい大きな赤潮の被害があったんですよね。その時に、たまたま餌を与えるのを忘れていたアワビの籠があって、周囲のアワビが殆ど死んでいたのに、その籠のアワビだけは全然死んでいなかったんです。だったら、餌を与えない方がイイのかな〜と思い、去年の夏は2〜3回餌を与えるのを止めてみたんですが、良くも悪くも赤潮が全く来なかったので、検証できませんでした」。自然を相手にしている人には、どこか共通する大らかさがある。それは自然に理屈で挑んでも常に覆される事を知っているから...。しかし、それでも諦めずに30年も試行錯誤を繰り返す伊賀上さんにやってきた、赤潮にも勝てるかも知れないという偶然は、必然といえる。「この海で、色んなやり方で、アワビの養殖をやってきましたが、もっと深い場所で養殖をしてみるとか、まだまだ試すことは沢山あるんですよね。赤潮にも負けない、このアワビの養殖を完璧に軌道に乗せようと、72歳となった今でも夢ばかり見てやってるんですけどね」。

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