匠の蔵~words of meister~の放送

姫松屋【老舗料理店 長崎】 匠:姫田洋代さん
2015年02月21日(土)オンエア
島原の郷土料理『具雑煮』を提供する老舗料理店『姫松屋』の六代目女将、姫田洋代さん。『具雑煮』の由来は『島原の乱』の際、原城に籠城した天草四郎を総大将とする3万7千の一揆軍が餅を兵糧とし、様々な具と一緒に雑煮を炊いたのが始まりだとされ、『具沢山の雑煮』の意味があるという。
「具雑煮は島原の乱の際の大鍋をヒントに初代の糀屋喜衛ェ門が、江戸時代後期の文化10年(1813年)に考案したモノだといわれています。今では島原の多くの店で具雑煮が食べられますが、それぞれの店で味が違いますので、それぞれの味を楽しんで欲しいですね」。『姫松屋』の『具雑煮』の具は13種類。餅、白菜(しろな)、牛蒡、椎茸、蓮根、春菊、穴子、鶏肉、玉子焼、高野豆腐、蒲鉾(3種類)と、彩りも鮮やかな地元の厳選した素材が使用されている。
「具雑煮の特許を取っている訳ではありませんので、それを他所の店で提供されていても気になりません。それよりもこの具雑煮が多くの店で提供されることで、島原の宣伝になるじゃないですか。多くの方々に、具雑煮を食べに島原を訪れて欲しいと思っていますからね」。そんな姫田さんは、どんなに『具雑煮』が求められようとも、島原以外の土地では提供する気はないという。
「よく通信販売をして欲しいというお話も頂くのですが、どうしても店で食べる『具雑煮』とは味が違ってしまいますらね。江戸時代から明治、大正、昭和、平成と激動の時代を生き抜き、先祖が一生懸命に守ってきた味ですから、同じように店舗を増やして提供しようという考えもありません」。昭和41年に佐世保から島原に嫁いで半世紀。その間、受け継がれてきた味を頑なに守り続け、代を息子たちに受け継いだ今でも店を離れると心配になるという姫田さん。そんな『姫松屋』の『具雑煮』の美味しさの秘密は、沢山の具はもちろん、鰹と昆布で丁寧にとった上品ながらもコクのある出汁にあるという。
「とにかく優しい味で、何にでも合う出汁だと思うんですよね。ですから表現が適しているのか分かりませんが、よく死を目前にされた方が、この具雑煮を求められるんですよ。ですから時代と共に色々とチャレンジして味を進化させるということも良いかも知れませんが、そんな方々から最期に食べたいと言われるのは、人間が欲する究極の味じゃないかなという気持ちでおりますから、それはどんなことがあっても守っていきたいですよね」。赤ちゃんの離乳食としても求められるという、その『具雑煮』の滋味深い、優しい味は、人が欲する究極の味だからこそ、姫田さんはどんなに時代が移り変わろうとも揺らぐことはない。しかし、その出汁に餅を入れるか米を入れるかは揺らぐと笑う。
「ちなみに私が最期に食べたいのは何ですかと聞かれたら、雑炊ですかね。この出汁で作った雑炊も本当に美味しいんですよ」。今では島原を代表する味として広く愛されるその『具雑煮』の味を守り続ける姫田さん。しかし、その味は姫田さん一人の力で守られている訳ではない。
「私は『和』という言葉が好きなんですよ。これからも島原の人々と一緒に、その和の中で仕事をしていきたいと思っています」。

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