匠の蔵~words of meister~の放送

楠田製菓本舗【銘菓 佐賀】 匠:楠田雄一郎さん
2014年04月12日(土)オンエア
『シュガーロード』と呼ばれる旧長崎街道沿いに店を構える『逸口香』専門店『楠田製菓本舗』の三代目、楠田雄一郎さん。佐賀銘菓として親しまれている『逸口香』は、小麦粉ベースの生地に黒砂糖、胡麻、蜂蜜の餡を包み、中が空洞になるように焼き上げたモノで、中国・山東省の『空心餅』が姿を変えて、日本に伝来したと言われている。
「長崎にも同じお菓子がありますが、長崎の場合は『一口香』と書き、『逸口香』とは見た目と味、そして、食感が少し違います。『逸口香』は中を空洞に膨らませるのが難しく、熟練した技が必要で、季節や湿度に合わせて生地の配合や火加減を調整しなければなりません。そうして香ばしく焼き上げると、薄い生地の裏に餡がピタっと張り付いて、サクサクっとして口溶けが良く、さらに粘りのある独特の食感が生まれるんですよ」。『楠田製菓本舗』の『逸口香』は、他社のモノより大きく膨らませるのが特徴で、それは先代が客を驚かせ、喜ばせることに重きを置いたからだという。
「学校を卒業した後は店を継ぐ気持ちはなく、普通に会社員として働いていたんですよ。しかし、会社では私の代わりとなる人間はいましたが、店では私が継がないと代わりとなる人間がいない。そうしてお客様の声にも後押しをされて、店を継ぐ決意をしたんですよね。小さい頃から工場で遊んでいましたので、製造方法は知っていましたが、いざやってみるとこれが難しい。父からは『やると決めたら覚悟しろ』と言われ、父の技を盗もうと努力を重ねる毎日でしたね」。そんな楠田さんは伝統の味を受け継いだ者の使命は、ただ味を守るだけではないという。
「昔からの常連さんはもちろん、佐賀を離れて遠くに住んでいる方が『逸口香』を食べて、『昔から食べていた、この味を探していたんですよ』と喜んでくるますからね。やはり昔ながらの味にはこだわり、これからも守っていこうと思っています。しかし、一番美味しい状態で、『逸口香』をお客様にお届けできるように、湿気や熱にやられない保存方法ですとか、包装、商品の置き方、売り方など、工夫をする余地は沢山あるんですよね。さらに、佐賀の伝統のお菓子である『逸口香』を、まだ食べたことのない方もいらっしゃいますので、そういった方に知って頂けるように努力することも、伝統の味を受け継いだ者の使命だと考えています」。例え、変わらぬ味を求められる伝統銘菓でも、幅広い視点で改善の余地を探し、努力と工夫を凝らすことを忘れない楠田さんの作る『逸口香』は、いつ食べても変わらぬ味でありながら、これからも進化し続ける。
「工夫は味を変えずに、商品を美味しくする力を持っていますからね。よく形が出来上がっているモノを受け継ぐのは大変と言われますが、使命感がありますから楽しいですよ」。そんな楠田さんの座右の銘は、『笑う門には福来る』。その『逸口香』は楠田さんを笑顔にするだけでなく、もちろん客をも満面の笑顔にしてくれる。

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