佐賀県内で唯一、本格的な和太鼓製作に取り組む、明治30年創業の老舗「谷口太鼓店」の四代目・谷口英さん。背振山から有明海に広がる、のどかな田園風景の中にある自宅横の作業場で、毎日、大小様々な太鼓と真剣勝負を繰り広げている。「大相撲ではないのですが、太鼓作りには、心・技・体のすべてが揃うことが大事です。気持ちを入れて太鼓を叩くと音が違うように、私も気持ちを入れて体当たりで皮を張っています。」。叩く方も張る方も、ストレートに結果が出てしまう。シンプルなものほど、ごまかしが効かない。そんな谷口さんが体当たりで張っている太鼓の命とも言える「皮」。最近では作業を簡素化する目的で、合成の皮を張る所も多いそうだが、あくまでも本物の牛の皮にこだわり、それを「絶対にやらない」と言う谷口さん。顔に刻まれた深いシワが、その頑固さを表しているようだった。そんな谷口さんにとって良い太鼓の定義とは、「私が満足して作った太鼓を、地域の人が叩いて、『うわ〜よか音ね〜』と言ってくれる。それが一番よい太鼓と思っています」。良いものを生み出す...それに理屈は要らない。「昔は一年の節目節目で、それぞれの町内から太鼓の音が聞こえて来ました。そんな昔の活気ある町を取り戻すことが私の夢ですね」。どんなに時代が新しくなろうとも、懐かしい太鼓の響きは、何故か日本人の心を揺さぶる。
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