匠の蔵~words of meister~の放送

ピッツェリア・ダ・ガエターノ【ナポリピッツァ専門店 福岡】 匠:舌間智英さん
2015年05月02日(土)オンエア
ピッツァ発祥の地、イタリア南部の都市ナポリの海に浮かぶ魅惑の島、イスキア島にあるナポリピッツァ専門店『ピッツェリア・ダ・ガエターノ』。“ナポリの神の手”と称されるピッツァ職人、ガエターノ・ファツィオ氏が代表を務める、その世界的に知られた名店の屋号を継承することを、世界で唯一許された舌間智英(TOMMY)さんは、ガエターノ氏のもとで6年間修行した後に独立。2011年に故郷の福岡に、その名店の屋号を冠した自らの店をオープンさせる。
「元々はIT企業に勤めていたのですが、その頃に雑誌でナポリピッツァの特集記事を読んで、自分が携わっている常に最先端を追い求める仕事とは正反対の『手でこねる、薪を使って窯で焼き上げる』という原始的な仕事に衝撃を受けたんですよ。もちろん最先端の仕事も楽しいのですが、その原点であるゼロから何かを生み出す職人の世界は、自分の性格に合っているような気がして。そこで会社を辞めて東京で修業をしようと思ったんですが、当時はナポリピッツァブームで修業をするのも順番待ち状態だったんですよね。それなら本場のイタリアに行ってみようと。最初は1年で帰る予定だったんですが、長くいればいる程、ピッツァの奥深さやガエターノのピッツァにかける想いなどを知って、結局6年間もイタリア生活を続けることになりました」。ナポリに本部のある非営利団体『真のナポリピッツァ協会』の技術指導員も務めるガエターノ氏は、これまで80人を超える日本人ピッツァ職人を育ててきたそうだが、TOMMYさんは普通、半年から1年間で修業を終える人々とは違い、ガエターノファミリーと国境を越えて本物の家族のような絆を築くことができたという。
「帰国前に『ナポリピッツァとは?』とガエターノに尋ねたところ、『自分のすべて』と答えたんですよ。たった5〜6年修行しただけの自分は『すべて』とは言えないな〜と思って、いつか自分も『すべて』と言えるように一生頑張っていこうと。独立した時に周囲からは『ガエターノの名前で東京に出店すれば凄いことになるよ』と言われたんですが、やっぱり『自分のすべて』と言えるようになる為には、自分の原点である故郷の福岡に店を出したかったんですよね。今後、東京や海外にも支店を出すという夢もあるんですが、本店は福岡にあって、ここから発信するというスタイルを貫こうと思っています」。そんなTOMMYさんは修行中、ガエターノ氏から『自信』をもつことの大切さを教えられたという。
「ガエターノからはやるからには自信をもてと、よく言われました。お客さんにとってはピッツァ職人としてのキャリアが1年でも2年でも関係ありませんから、胸を張って格好よく堂々と作れと。ナポリピッツァの基本は『見て楽しい、食べて美味しい』だと言われているんですが、美味しいのは当然として、見せるという部分も大切なんですよ。ですから例えば窯も自信をもって美味しいピッツァを提供する店は、必ず薪の火がお客さんに見えるように配置していますからね」。そんなTOMMYさんの店も当然、窯の中の薪の火が客に見えるように配置され、その前でスタッフたちが常に笑顔でピッツァを焼いていた。
「日々の仕事の中で大切にしている想いは、何事も押し付けないということですね。本番で修業すると、どうしてもイタリアかぶれになってしまって、これがイタリアのスタイルだから、これがナポリピッツァだからこれを食べなさいという風になりがちになるんですよ。ナポリピッツァの本場では、一人一枚をカットもせずに熱々の内に食べるというスタイルが基本なんですよね。それが一番美味しいですからね。カットするとすぐに冷めるし、旨味もお皿に流れてしまうし。でも日本ではピッツァというとパーティーなどで、皆でワイワイとゆっくりと食べるイメージがあって、4人いたら4種類のピッツァをカットしてシェアするというスタイルが最初から根付いていますよね。ですからそれを壊してまで自分のエゴを押し付けてしまうと、どんなに美味しくても受け入れられないと思うので、最初はそういう日本のスタイルに合わせて提供しようと。もちろん最終的には、一人一枚を熱々の内に食べてもらうというスタイルを提案していきたいと思っているんですが、それには順番があって、まず自分の店を好きになってもらう、そこからスタートだと思っています」。ナポリタンがイタリア料理だと信じられていた日本で、本場のイタリア料理が根付いたのは、つい十数年前だったように、本場のナポリピッツァのスタイルを日本に根付かせたいというTOMMYさんの夢に近道はない。ナポリピッツァの基本だという『見て楽しい、食べて美味しい』TOMMYさんの店は、その味だけではない魅力で、訪れた人を楽しませていた。
「このピッツァよりも、まずこの店を楽しんで頂きたいという想いがあるんですよね。味やサービスの良し悪しは否定しやすいですが、『この店好きなんだよ』と言われると否定できないじゃないですか。ですから『料理が美味しいね』『サービスがイイよね』と言われるよりも、まず『この店好きだね』って言って貰えるように。そうして自分のことを信頼してもらった上で、本場のスタイルを提案していこうと思っています」。昨年はグリル料理とお酒をコンセプトにした2号店『グリリア・ディ・ガエターノ』をオープンさせ、より幅広く『ガエターノ』のファンを増やそうと精力的に活動するTOMMYさん。その座右の銘はシンプルな『努力に勝る天才はなし』という言葉だった。
「どの繁盛店も必ず努力しているんですよ。その努力によってお客ささんに楽しんで頂けるようになると、自分も楽しくなりますからね」。

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