匠の蔵~words of meister~の放送

花滴庵【茶道教授 長崎】 匠:早稲田佳子さん
2014年04月19日(土)オンエア
茶道や華道、懐石料理などを通じ、様々な和の空間を演出する茶道教授、早稲田佳子さん。『花滴庵』という庵を結び、長崎県内で美しい作法や生活の知恵などを学ぶ教室を開いている他、季節の茶会なども行っている。
「幼い頃、弓道を教えていた母方の祖父が、いつもお茶を飲ませてくれたのですが、その影響から自然に和の世界へ入っていきました。お茶は肩肘張らずに美味しければそれでいいというのが、一番基本にあると思うんですよね。お菓子を食べて『あ〜美味しかった』、お茶を飲んで『あ〜なんか心がホッとして、体が楽になった』というようなことがお茶の効能であり、そのような気持ちにさせてくれた祖父のお茶が、今の私を作ってくれたと思っています」。そんな早稲田さんは茶道教授として、生徒たちの茶道に対する壁を取り払ってあげることに尽力するという。
「お茶を飲んで心が癒されると、例えば茶碗を作ってくれた人や、茶葉を木から育て、大事に摘み、作ってくれた人など、見えないモノに感謝する心が自然に芽生えると思うんですよね。そうすると片手でお茶椀を持ったり、茶葉を粗末に扱ったりできませんよね。ですから見えないモノに感謝する心が入った時に、『茶』に『道』という字が付いて、『茶道』になるのではないかと思います。日本の伝統というのは、そのように形や形式を大事にすることではなく、精神を大事にすることではないかと思います」。何かと型苦しいイメージを持たれがちな茶道の世界だが、茶道とは作法を学ぶ為にあるのではなく、人を喜ばせる為にある。だからこそ、その喜びは自然と感謝の心を形づくり、作法の原点...種となる。
「茶道とは生きる為の基本的なモノに感謝する心を、改めて教えてくれるモノ。そうして改めて教えてもらっている内に、自然にそういう気持ちになって、感謝ができるようになっていくのではないでしょうか」。そんな早稲田さんは、東京オリンピックの招致活動で注目されるようになった『おもてなし』は、本来、表に押し出すような言葉ではないという。
「馳せて走ると書く『御馳走』という言葉がありますね。本当にお客様を『おもてなし』しようと思う時に、そのお客様の為に準備をする人たちが、アチコチ駆けずり回って、一生懸命準備をする。それが『おもてなし』の極め付けだと思います。そして、その『おもてなし』は、気を使っていますという部分を見せるモノではなく、何気なさそうにしてさしあげて、お客様が居心地良く過ごせるようにすることではないでしょうか」。『おもてなし』は認めてもらう為のモノではなく、対価を求めない無償の気遣い。本当に世界に誇るべきは、そんな奥ゆかしい和の文化なのだろう。
「お客様がお客様上手であるというのも、大事なことだろうと思います。例えば、ご飯がとても美味しかった場合に、『どこのお米でしたか』と聞いて下されば、やはり、『探して良かった』とか、『選んで良かった』とか思いますよね。そして、『どこそこの何々米でございます』と答えることができる。そういう風に『美味しかった』だけで済ますのではなく、その奥にもう一歩踏み込んで聞いてもらうだけで、もてなす側は、本当にもてなす冥利に尽きるというか、本当に嬉しい気持ちになりますからね」。そんな早稲田さんは、禅語の『喫茶去(きっさこ)』というという言葉が大好きだという。
「『喫茶去』とは『お茶を一服、一息つきにいらっしゃい』というような意味の言葉なのですが、お茶はそのように人生に一息つかせてくれて、また新しい世界に旅立つ元気を与えてくれる。お茶、花、料理を通じて、これからも居心地の良い空間を色んな人と一緒に共有していきたいと思います」。

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