沖縄を代表する琉球ガラスの名工で、ガラスに封じ込めた気泡が小宇宙のような景色を見せる“稲嶺琉球泡ガラス”を考案した「宙吹きガラス工房 虹」の稲嶺盛吉さん。本来、琉球ガラスの世界では気泡の入ったガラスは、不良品として低い評価しか受けていなかったが、稲嶺さんは逆に気泡を意識的に入れることにより独自の作風を構築。その圧倒的な色彩美と造形美は、人間の想像できる範囲を超えた...大自然が織り成す圧倒的な美しさに触れた時のような感動を与えてくれる。「戦後、我々が仕事を始めた時期は、ほとんど廃ビンをリサイクルしてガラスを作っていたのですが、廃ビンを活用すると、どうしても気泡が入ってしまうんですね。当時は、気泡が入ってしまうとガラス自体が駄目だと言われていましたが、逆転の発想で、この気泡を全部入れてしまえば芸術作品になりえると考え、 “泡ガラス”の製作を始めたという訳です。最初は皆から変人扱いされましたが、私の感覚からすると温かみのある凄いガラスが出来たと…。ですから、これは絶対に世の中に出してみせるという意気込みがありましたね」。失敗は、途中で放り出してしまうから失敗になる。それを逆手にとって膨らませてみることで、新たなガラス工芸のジャンルを築いた稲嶺さん。その独特で自由な発想に、沖縄を感じる。「最初の4年間は、全く売れなかったのですが、『京都で個展を開きませんか』という誘いを受けて、その時に、一週間の予定が4日で作品を完売したんですよね。それからは評価がこれまでとは全く正反対になりました」。個展を機に高い評価を受けるようになった“泡ガラス”。それは稲嶺さんの旺盛な好奇心から生み出されている。「例えば、ガラスの中にカレー粉を入れると、鮮やかな飴色の泡状のモノが出てきます。また、備長炭と沖縄の黒糖を入れると紅色に変わるんです。あらゆるモノを入れながら、雰囲気を見て“泡ガラス”を作っています。次々に新しい発見のあるこの作業は、本当に楽しいですね」。廃ビンからは不可能と言われていた紅い色を出す事に成功した稲嶺さん。近年では、その色から「紅珊瑚」」と名付けられた花器が、「第6回モナコ日本文化フェスティバル」において、「モナコ公国・名誉賞」を受賞したそうだ。「このガラス工芸の世界は、ガラスにどれだけ惚れているかということが大事だと思います。私の場合は本当にガラスに惚れこんでいますので、ガラスの意思を尊重して作品を作っています。私が作るのではなく、ガラスが私に『こういう形になりたい』と作らせる。無理に形を作ろうとすると、絶対にガラスの素材が生きて来ませんよね。ガラスと会話しながら作品を作っているようなものです」。熱い沖縄の地で、ガラスを溶かす窯の熱風が吹きつける中、「ガラス工芸は熱い仕事ですから、熱い沖縄でやるのが楽しいんです」と、日々、人々を魅了する“泡ガラス”を製作している稲嶺さん。その表情からは、自らが惚れこんだガラス工芸の職を全う出来る喜びに満ち溢れていた。
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