匠の蔵~words of meister~の放送

内野樟脳【天然樟脳工場 福岡】 匠:内野和代さん
2014年04月26日(土)オンエア
江戸時代創業の日本最古の天然樟脳工場『内野樟脳』の五代目、内野和代さん。国産のクスノキと水のみを原料に、昔ながらの製法で作られる『内野樟脳』の天然樟脳は、まるで森林の中にいるかのように癒される、爽やかな香りが特徴で、衣類や書籍の防虫剤としてはもちろんのこと、芳香剤やアロマとしても広く愛用されているという。
「クスノキを蒸して、そのエキスを抽出して作る天然樟脳は、古代エジプトの時代から製造されていたそうで、日本へ製法が伝わったのは約400年も前のことなんですよね。そんな天然樟脳は、昭和36年までは国の専売品として守られていたんですが、以降、化学物質を原料とした合成樟脳が製造されるようになって、天然樟脳の工場が衰退していったという歴史があるんですよ」。天然樟脳を製造する工場は、全国で『内野樟脳』のみという苦しい時代もあったと笑う内野さん。しかし、人にも環境にも優しい天然樟脳の効能が、時代と共に徐々に見直されるようになり、いまでは多くのリピーターから支えられているという。
「悩んだ時代もありましたが、神奈川県の自然食を推進する団体から依頼があって、そこから様々な人と繋がり、今では全国から依頼が入るようになりました。また、天然樟脳を製造する仲間も徐々に増えてきましたので、天然樟脳の良さを、もっともっと多くの人に知ってもらえるように頑張っていきたいなと思っています」。そんな内野さんは、天然樟脳を製造する過程にマニュアルはないという。
「火の利き加減や水の差し加減など、五感と感性を研ぎ澄ましていないと、やはり良い樟脳はできませんので、樟脳の製造過程において一番気を使う部分は、そこですね。マニュアルがある訳ではありませんので、こういう時はこうという具合に、口で説明はできないんですよ。経験を積み重ねて、自分で覚えていくしかない世界だと思っています。工場にある道具たちは、私より遥かに先輩なんですよ。そんな先輩たちが、少し火力が弱いとか、水が足りないというのを、グツグツとかコポコポとか音を出して教えてくれますからね。樟脳づくりにおいて最も大事なことは、その訴えかけてくる声を臨機応変に受け止めて、行動に移すことだと思います」。気温や湿度、そして、素材と、どれをとっても同じ状況のない樟脳づくりに、マニュアルなんてある訳がない。内野さんが語るように、五感を研ぎ澄まし、道具の声に従って臨機応変に行動することこそが、職人にとっての唯一のマニュアルなのだろう。
「伝統のプレッシャーは?とよく聞かれるのですが、あまり気負わずに、いま自分にできることを着実にやっていれば、自然に次の時代に繋がるのかなと思っています。最近、工場を見学にきた小学生が、天然樟脳を『白く輝く香りの宝石』という素敵な言葉で表現してくれたんですよ。それがとても嬉しくて。そんな子どもたちが大人になっても天然樟脳を使ってくれるように、原料に、道具に、そして、支えてくれる人に感謝しつつ、これからも歩んでいこうと思います」。そんな内野さんの座右の銘は、やはり『感謝』であった。

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