蕎麦通が作る県内の蕎麦屋番付で、2004年に西の横綱に選ばれた「そば処つくる」の店主・永田作さん。かつて「ベートーベン」と呼ばれた音楽教師だった永田さんは、妻の祖母が作る蕎麦の味に魅了され、高齢になった祖母の代わりに家で蕎麦を打つようになる。しかし、お裾分けの味が評判を呼び、退職後に現在の店を構える事になったそうだ。タクトを麺棒や包丁に持ち替えて厨房に立つようになってから10年以上...素材にも作業にも一切妥協せず、小麦粉などのつなぎを一切入れない水だけで打つ「十割蕎麦」しか作らないなど、今では音楽教師という柔和なイメージではなく、頑固な職人のイメージが際立っている。「お客さんの中にも面白い人がいて、『お前の所の蕎麦は、テンカスが入っていないから美味くない』と...。私はテンカスなどは蕎麦の味が悪いので、誤魔化す為に入っていると思っているんですよ。しかし、そういう風に言われると、凄く腹が立ちます。自分が手を抜かずに魂を込めて作っている蕎麦を、そういう風に言われると非常にはがいくて残念ですね。私は『お前ん所のつなぎは何か』と言われたら『魂だ』と答えていますからね」。本気だからこそ本気で怒る。それほど蕎麦に情熱を傾ける、熱い蕎麦作りの職人である永田さん。「もっとも良い蕎麦の状態は、蕎麦が教えてくれる」という職人らしい一言も語ってくれた。「調子が悪い時には、『お前はこんな事ではいけないよ』とか、『水を5%くらい、もう少し増やしなさい』とか、手に伝わって来るんです。それは作った人でないと分からない感覚なのかも知れませんが、手に触る感覚が、冷たかったり、温かかったり、重かったり、軽かったりするんですよね」。何事も真摯に向き合う努力をすれば、向こう側から答えがやって来る。言葉には表せないという事こそが、職人の領域なのだろう。そんな永田さんの店の看板メニューは、蕎麦の実の芯のみを使う真っ白な「大名蕎麦」。それは、永田さんの仕事への姿勢に裏打ちされた、濁りのない誠実な味がした。
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