匠の蔵~words of meister~の放送

田島商店【陶土メーカー 佐賀】 匠:田島徳文さん
2014年05月10日(土)オンエア
白磁、色絵、染付など、多様な魅力で世界中から愛されている『有田焼』。2016年に生誕400年を迎える『有田焼』を、原料となる土を造る仕事で支える陶土メーカー『田島商店』の三代目、田島徳文さん。使い手を意識して造られる『田島商店』の良質な陶土は、多くの『有田焼』の陶工たちから支持されている。
「陶土を造る仕事の工程は、まず陶石を洗い、鉄分の多い部分を剥がします。そして、粘性や耐火度の違う3種類の石と砂を混ぜ、粉状にし、水にさらしてふるいにかけて、粒を揃えて完成します。機械化は進みましたが、石に含まれる鉄分の見極めや石と砂の配合比、さらす水分の量など、大切な部分は今でも職人の勘が頼りです」。その蓄積してきた職人としての経験から、「石の顔を見れば状態が分かる」という田島さん。しかし、近年は量産食器の低迷から、最盛期には有田町や波佐見町に50軒以上あった陶土メーカーも半分以下に減少。田島さんのような職人も少なくなったという。
「近年は冠婚葬祭を家で行わなくなるなど、それぞれの家庭で大量に食器をもつ必要がなくなったんですよね。そのように厳しい環境下ではありますが、私たちは使い手を意識した土造りを行い、従来品より軽く、強度も高めた土を開発するなど様々な取り組みを行っています」。そんな田島さんは、「土造りは技術も大事だが、基本はさらに大事」だという。
「陶土メーカーは焼物を買い求めるお客さんから一番遠い場所にいるんですよね。ですから私たちが意識するのは、一番近い場所にいる窯元さんたちが少しでも使い易いように、窯元さんたちの歩留まりが少しでも良くなるように、陶土の品質を安定させることなんですよ。また『有田焼』の製作は分業制で、完成するまでの過程では、様々な人が関わるんですよね。そんな中、陶土の品質が常に安定していれば、何か問題が起きた時に、問題点が一つ減って、探しやすくなるじゃないですか。ですから製品となる陶土のチェックは何度も何度も繰り返し、問題がないように特に気を使っています」。例え圧倒的な技術があろうとも安定感のない仕事は、どの分野でも敬遠される。そんな基本を忘れないからこそ、田島さんの仕事は『有田焼』を代表する窯元からも信頼されている。
「現在、『有田焼』の土は粘性が高く不純物の少ない『天草陶土』が主流なのですが、昨年亡くなられた十四代柿右衛門さんの後押しもあって、『有田焼』の始まりとされる『泉山陶土』による土造りにも取り組んでいるんですよね。柿右衛門さんは『いまの焼物はきれいになり過ぎて美しくない』と、『泉山』のような石の味わいを形にする焼物も残そうとされていたのですが、その晩年に私たちの造った『泉山』の土で、焼物を完成させてくれたんですよね」。現代では幻と呼ばれていた『泉山陶土』を完全に復活させる為に、難点とされている粘性を高めようと、いまも基本に忠実に、試行錯誤を繰り返しているという田島さん。その多くの陶工たちから支持されている田島さんの勤勉な姿勢は、座右の銘に掲げる『信頼』そのモノだった。
「私は三代目ですから、先代の借り物で仕事をしているんですよね。自分ではなく、先代がいたからこそ、今の私があるんですよ。私には、そこを次に繋げていく責任がありますから、いい加減な仕事はできませんよね」。

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