熊本は小国郷の名所、そば街道にある「戸無しのそば屋」。このそば街道の立役者でもある社長の小笠原和男さんは、そば打ちの指導も行うなど、そばの普及活動に力を注いでいる人物だ。そんな小笠原さんの店では、そばの打ち方だけではなく、そば粉の配合、そばつゆの配合まで教えてくれる。「そばを知らない人に教えると、そば屋さんを始める人もおるし、自分の趣味でそばをやって行く人もおるし、そういう人達を増やせば増やす程、そばの理解者、そばを好きな人が増えて行くことになる訳ですよ」。しかし、松尾さんがそば修行を始めた当初は、そばを教わる事の難しさを痛感したそうだ。「最初は出雲のそば屋さんで修行したんですけど、非常に旧態依然としているんです。職人気質っていうか何も教えてくれない。秘密のタレとか秘密の粉作りとか…、でもね、やって見るとそんなに難しい事じゃないんですよ。それを何で教えないんだろうという事で、ウチは全て教えるようにしたんです」。そして、小笠原さんは、「そういうやり方をする事によって、そば街道も活性化していくし、小国郷という所が、そばの街になって行くんです。」と言う。裾野を広げる事は、どの商売でも基本だが、敷居が必要以上に高くなっているそば屋もある。でも、もともとそばは、そんなものじゃない。そんな小笠原さんに「蕎麦打ちの伝導師ですね。」と声を掛けると、「それは大袈裟ですよ」と照れながら笑った。多くの人に教えられている匠のそばは、それでも他のどのそばとも違う味がした。
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