明治42年創業の国内最大規模の養蜂場『西澤養蜂場』の代表、西澤康全さん。ミツバチと共に沖縄から北海道までを渡り歩く「転地養蜂」で旬の蜜を求め続け、新鮮で糖度の高い蜂蜜を提供する。「ウチの強みはミツバチと採蜜場の数です。現在は沖縄から北海道まで全国に採蜜場を持ち、そこで1000万匹以上のミツバチを育成。一斗缶(18リットル)にして年間約2000本分の蜂蜜を採取しています」。現在は温暖化の影響で、冬を越せない女王蜂が増えたそうだが、それでも長年の経験と技術に裏付けされたミツバチの育成技術は、他の追随を許さない。「ミツバチの数にこだわるのは理由があります。それはミツバチが吸う花の蜜の80%は水分なので、ミツバチや、その幼虫の体温、そして運動熱で水分を蒸発させて蜜の糖度を高めていかなければ、美味しい完熟した蜂蜜にならないんですよね。ですから、ミツバチの数が重要になってくるというわけです」。現在は宮崎に直売所を3軒出店。蜂蜜の他、ローヤルゼリーやプロポリス、蜂蜜を使ったソフトクリームなども販売。レンゲ、アカシア、ミカン、リンゴと、それぞれの花から採られた、まさにミツバチからの贈り物といえる蜂蜜は、口に含むとまろやかな優しい甘さが広がる。「ミツバチは基本的に一種類の蜜しか集めませんが、花の季節の終わりに、新しい花の蜜を集めたミツバチが、一緒の巣の中に入ることがあるんですよ。そうすると安い値段の蜂蜜になってしまいますので、巣箱を引き上げるタイミングが重要になってきます。1日の差で大きく味が変わる繊細なモノですから、天気予報などを注視しながら、短い花の期間に1回でもロスが生まれないように蜂蜜を採取しています。そういった吟味する力、判断する力がないと蜂蜜の生産量は上がりませんよね」。西澤さんは、その判断は長年の経験で培われてきた勘に委ねていると言う。しかし、その勘は、長年、仕事と真剣に向き合ってきた者のみに与えられる力。一瞬一瞬の判断の差で味が変わる養蜂の世界は、ハチミツの味のようには甘くない。「養蜂の世界は陶芸などのモノ作りの世界と一緒です。どこまで行っても、これで完璧ということはありませんよね。しかし、ミツバチは人を裏切らないというのか、自分が手を入れた分だけ返してくれます。そんな勤勉なミツバチを見習い、これからも高品質な蜂蜜を生産していこうと思います」。
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