四季の彩りが鮮やかなコントラストを描く、秋月の街並みの一角に工房を構える、「小森草木染工房」の小森久さん。四季折々、刻一刻と表情を変える自然の色に魅了され、「自然を染めたい」と、茜、藍、栗、蓬、梅、葛の葉などの草木を染料に、自然の色を一本一本の糸に再現している。「元々は博多織職人だったのですが、終戦を迎え、人々の暮らしが着物どころではなくなり、木炭を焼いていた父の仕事を手伝っていたんですよね。その時の山奥での生活が、自然の色の美しさに気付かせてくれました。以来、草木染め一本で60年になります」。そうして、自ら「本・草木染」と名付けた技術は、甘木市無形文化財に指定され、以来、全国各地の織物品評会などで内閣総理大臣賞をはじめとする数々の大賞を受賞。さらに、小森さんが草木染技術の粋をまとめた書物が国立図書館に所蔵されていると言う。「この草木はどんな色に染まるのか...そして、どの位の時間、どの位の温度の染め汁に漬ければいいのか...その知識は、60年以上染め続けてきた賜物ですよね。それでも山に入れば、まだまだ染めたことのない草木がたくさんあります。そんな草木を持ち帰り、どんな色に染まるのだろうかと試している時は本当にわくわくします」。そんな小森さんは、自然の草木で染めるのは、手間隙がかかり合理的ではないが、それでもそこにこだわるのは、色を染めるという事は、ただ美しいという理由だけではないからだと言う。「昔はの着物は化学染料で染めていませんよね。60年間染めてきた中で、染まる草木はすべて薬草なんですよね。逆に薬草ではないと染まらないんです。赤い腰巻、赤ふんどしなどは、それに殺菌力が含まれているから下着として重宝されてきた訳なんですよね。ですから、いくら頑固と言われようが、私一人ぐらい昔の通りの染め方で帯を作りたい、ネクタイを作りたいと思っています」。小森さんは絹を赤に染める茜には、自然の殺菌力があると言う。それは、もちろん赤い色を出すだけの化学染料にはないもの...。小森さんが頑固に愚直に染めたその帯やネクタイには、便利さを求めて失った日本人の知恵が詰っている。そんな小森さんは現在81歳、「100歳まで現役」と語る、その若々しい言葉と小森さんの肌艶が、自然と共生することの大切さを雄弁に物語っていた。
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