匠の蔵~words of meister~の放送

仁太屋銀工房【工房 鹿児島】 匠:中村稔彦さん
2015年06月13日(土)オンエア
鍛造(たんぞう)と呼ばれる日本の伝統技法で、アクセサリーやベルトのバックル、小物などの金・銀製品を製造、販売する『仁太屋銀工房』の中村稔彦さん。現在、殆どの金属製品は溶かした金属を型に流し込んで成形する鋳造(ちゅぞう)で製造されているのに対し、中村さんは地金の状態から直接造り込む鍛造で、繊細な装飾が施された様々な金属製品を製造。また、手でモノを作る感動を多くの人に伝えたいと、工房では彫金教室も開催しているという。
「僕は屋号にもあるように、銀を主体に製品を造っているんですね。そこで行っている鍛造は、鋳造に比べて確かに非効率でコストもかかる技法なんですが、最初から最後まで素材に触れながら造っていくので、金属が変化する様子を楽しむことができるんですよ。もちろんそれだけではなく、鍛えた地金の強さや状態の良さは、鋳造では得られないですからね」。地金の塊をハンマーなどで打ち延ばし、曲げたり、切ったり、繋いだり、削ったりする鍛造の技法。そうして成形された製品を最後に磨くと、まるで鏡面のような輝きを放ち、言葉では表現できない程の感動を与えてくれるという。
「私は京都の金属工芸家、竹影堂鎚舞先生のもとで修業させて頂いたんですが、先生からは金属の知識や加工技術だけでなく、何かに一生懸命に取り組み、その結果得た感動は人生に豊かさを与えてくれるということを教わったんですよ。確かに鋳造と鍛造で造られた製品の違いは、手に取った人が分かるか分からない程の微妙なモノなんです。でも、その一手間が生む感動は一手間以上のモノを人生に与えてくれますからね」。合理的な思考がもてはやされる現代。しかし、何でも合理的にコトを運ばす、その一手間に自らの誇りをかけるのが、職人の美学であり、日本人の美学というモノだろう。
「職人にとって大事なことは、何より基本の技術がしっかりとしていることだと思います。基本がしっかりとしていれば、後はそのレベルを、どれだけ上げていくかということなんですよね。ですから凄い技術というのは、ただ手先が器用なだけでは身に付かないと思うんですよ。それは何度も何度も繰り返して行った結果、習得できるモノであって、それを信じてやる続けることで、基本的な実力がつけば、後はどうにでも応用できますからね」。そんなモノづくりに打ち込んだ経験が、何よりもモノをいう職人の世界。それはただ才能があるだけで極められる程、簡単なモノではない。
「僕は職人の世界で認められるようになるのに、才能は関係ないと思っています。才能よりも情熱が大事なんですよね。才能だと言ってしまうと、できない自分の言い訳になってしまうんじゃないかな〜とも思いますし。ですから才能ではなく情熱。どれだけ情熱を注いでやれるかということだと思います」。鍛造で金属製品を製造する仕事に喜びを感じ、その仕事にすべての情熱を注ぐ中村さん。『好きこそモノの上手なれ』という諺もあるが、その諺通りに情熱を注ぐことができることも、ある意味、一つの才能かも知れないと思えた。
「微に入り細を穿つ日本の職人のモノづくりの技術は、自己満足の為でなく、人の為にモノを作ってきたことで向上してきたと思うんですよ。そんな日本のモノづくりの精神が、僕は大好きなんですよね」。現在、そんな日本の職人の技術をさらに進化させ、新しい文化や伝統を作っていこうと、他の分野の若い職人やアーティストと共に『JUNOJI』というブランドを立ち上げて活動する中村さん。その想いの根底には、すべての人、モノへ対する中村さんの感謝の気持ちが溢れていた。
「結局、金属って地球が生み出してくれたモノなんですよね。そして、それを掘り出してくれる人、運んでくれる人、加工する技術を現代に受け継いでくれた人がいて、僕たちはいま、こうして仕事ができるんですよ。ショーケースに並べられた、例えば指輪だけを見ていても、『これを地球が生み出したんだ』なんて感じることは難しいですよね。でも地金の状態から金属に触れていると、それを感じることができるんです。ですから僕は金属を生み出してくれた地球に、そして、先人たちを含めて、その金属に関わる人たちへの感謝の気持ちを忘れない為にも、こらからも鍛造にこだわってやっていきたいと思っています」。そんな中村さんの座右の銘は『失敗は成功のもと』という言葉。何度も何度も繰り返し、愚直なまでに基本の技術を磨いてきた中村さんの職人として信条が、座右の銘にも表れていた。

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