全国屈指の銘茶の産地嬉野で、『嬉野茶』の製造から販売までを行う『相川製茶舗』の四代目、相川源太郎さん。蒸し製緑茶の全国品評会で2度も日本一に輝きながら、「ひとつの茶葉から様々な可能性を探りたい」と、国産の『嬉野紅茶』の製造にも尽力する。
「お茶というのは、完全発酵させた茶葉でいれるのが『紅茶』、半発酵させた茶葉でいれるのが『烏龍茶』、そして、発酵させない茶葉でいれるのが『緑茶』と、すべて同じ茶葉から生まれる飲み物なんですよ。そんな中、日本で『緑茶』が主流となった理由は、やはり『お茶漬け』は『緑茶』であるように、渋味が少なく和食に合うということでしょうね。また、茶葉を使わない『麦茶』や『ごぼう茶』などは、本来は『麦湯』『ごぼう湯』と呼ぶのが正しいんですよね」。そんな茶にまつわるウンチクに耳を傾けながら、こだわりの茶器や茶菓子と共に、ゆっくりと茶を楽しめるカフェを、平成6年に併設したという相川さん。それは茶の魅力の本質を伝えたいという想いがあったからだという。
「お茶は、『紅茶』にしても『烏龍茶』にしても『緑茶』にしても、喉の渇きを潤すだけではなく、心の渇きまでも潤してくれる飲み物だと思うんですよ。ですから英国の紅茶文化を代表する『アフタヌーンティー』とまではいかなくても、そういう日常の中でお茶を楽しむ文化、お茶の飲み方を提案できたら、最高にイイんじゃないかなと。お茶づくりは、ただ美味しいお茶をつくればイイと、僕は親父から薫陶を受けていたモノですから、以前は、とにかくお茶の品評会で日本一を獲ることばかりに力を注いできたんですよ。しかし、いざ日本一を獲ってみると、それだけがお茶本来の魅力ではないと気付いたんですよね。やはり長い歴史をもつ日本の喫茶文化の素晴らしさ、楽しみ方も、僕らお茶の生産者自身も勉強して、お客様に伝えていくことが大切だと思います」。そんな相川さんは「昔は、どこの家庭にも『茶の間』があり、普段からお茶を介してコミュニケーションを図ったり、心癒されたりしていた」という。相川さんが伝えたいのは、何も新しい茶のスタイルではなく、もともと日本にあった、人の心まで潤す喫茶文化そのモノなのだろう。
「今はもう、ただ美味しいお茶を作って、売るだけでよしとされる時代ではないんですよね。やはり少々値段が高くとも、じっくりと味わえる心を潤すお茶、そして、値段も安く、ガブガブと飲める喉を潤すお茶を提案したり、四季折々のお茶の味わい方を提案したり、お客様にお茶を飲むスタイルまで提案できたら最高ですよね」。そんな相川さんは、お茶を製造する時は、客の顔をイメージすることを忘れないという。
「この人に飲んで欲しいというイメージをもって仕事をすることは大事ですよね。やはりお客様の顔をイメージすると気持ちが入り、仕事が丁寧になりますからね。そして、その気持ちは必ずお客様に伝わると思うんですよ。ですから私は自分のつくったお茶を、普段、どんな人が飲んでいるのかということを、積極的に見るように心がけています」。日々、昔ながらの製法のもと無添加の茶を製造しつつ、現代に合った新しい茶のスタイルを提案する相川さん。それは座右の銘に掲げる『温故知新』そのものだった。
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