雄大な霧島連山に囲まれた都城市の恵まれた自然の中で、ブルーベリーを栽培する農園『KIYANSE FARM』の代表、大前幸佑さん。『KIYANSE(キヤンセ)』とは、宮崎の言葉で『来て下さい』『いらっしゃい』などの意味。大前さんは約1.2ヘクタールの面積に30種類2000株のブルーベリーを栽培。除草剤や農薬を一切使わない自然農法で、ブルーベリー本来の濃厚で甘酸っぱい味と共に爽やかな風味を追求。ブルーベリーのジャムや葉茶、ピクルスなどの加工品も手掛ける他、収穫期の初夏には、ブルーベリー狩りが楽しめるように農園を一般に開放しているという。
「ブルーベリーはもともと両親が趣味で栽培していたモノなんですが、その手伝いをしている時に、土に触れる仕事に魅力を感じたんですよ。休憩の時に太陽を浴びながら土の上に座って食べたご飯が本当に美味しくて。私は学生時代に野球をしていましたので、その頃の土の感覚を懐かしく思い出したのかも知れませんね。それで将来はこれを仕事にしたいと思い、新規で農業を始めたという訳です」。学生時代は野球一筋に打ち込み、卒業してからは福岡で営業の仕事に従事。その後、地元に戻り、ネットショップを手がけていたという大前さん。農業は未経験だった為、最初の頃は失敗続きだったという。
「まずは関連本を10冊程読んでブルーベリーの栽培を始めたんですが、最初の3年間に400本から700本もの木を枯らしてしまいました。そこで改めて農業で一番大切なことは土づくりだということに気いたんですよ。それまでは木の方・・・上ばかり見ていたんですが、足元の土に目をやらないとダメだったんですよね」。そうしてブルーベリーの栽培に適した土づくりに取り組み、現在は安定して収穫できるようになったという大前さん。その土はミネラルが多く甘いブルーベリー本来の味を引き出してくれるという。
「私の農園では農薬や化学肥料などを一切使っていないんですが、それは土を壊したくないからなんですよ。栄養をたくさんあげれば当然、植物は育つんですが、人と同じで甘やかして育てると弱くなってしまうんですよね。植物はもともと自分の力で生えているモノですから、そういった自然のエネルギーを最大限に引き出せるような栽培方法を心がけています」。そんな大前さんは、ブルーベリーの栽培は本当に子育てと同じようなモノだと目を細める。
「私も子どもがいるんですが、何でもしてあげてもいけないですし、ほったらかしにしてもいけないですし、やはり子どもができることは見守ってあげないといけないですよね。その為には色んな知識が必要になると思うんですが、農業も同じで、まったく知識がなくて、ただ見ているだけではダメなんですよ。やはりキチンと勉強して知識をもった上で、ここは手を貸すべきではない、ここは手を貸すべきと判断しながら育てると。そういったことを植物から学ぶことができました」。大前さんは手を貸さないというと、手間暇をかけていないと思われがちだが、キチンと勉強した上で、今は手を貸す、手を貸さないと判断しながら栽培する方が、実は手間暇が掛かるという。そんな手間暇のかけ方を間違わずに育てられた大前さんのブルーベリーは、自然のままの力強い味をしていた。
「どこの山を見ても肥料をあげている訳ではないのに、すごく木が育っていますよね。それを見れば、やはり自然の状態が植物にとっては一番いい状態なんだろうなと思うんですよ。もともと畜産が盛んな都城の土壌は養分が多いですから、それに加えて人間が栄養を与え過ぎると、かえって虫が寄ってくるなどの問題も起きるんですよね。ですから、これからも養分を抜いて、できるだけ自然な状態の土に戻して、美味しくて逞しいブルーベリーを育てていきたいと思っています」。今後は子どもたちが農業を明るく楽しめるような農園を目指し、ここ『KIYANSE FARM』を農業のテーマパークにしたいという壮大な夢をもつ大前さん。その座右の銘は、これまでの大前さんの歩みを助けてくれた多くの人たちへと向けた『感謝』という言葉だった。
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