地元の人のみならず、博多駅から徒歩5分にあるという場所柄、新鮮な博多の味を求めて日本全国から常連客が足繁く通う創作料理店「味市春香 なごみ」の店主・渡邉太さん。渡邉さんは、日本料理店で料理長として活躍してきた父親の背中を見て育ち、自らも料理人の道へ。「子どもの頃に見た大勢の料理人を率いる父の姿は、本当に格好良かったですからね。そんな父からは、この世界に入るのであれば料理長になりなさいと言われました」。そうして渡邉さんは、日本料理の名店「博多きょう重」で料理の基礎を徹底的に学んだ後に独立。創作料理店として「味市春香 なごみ」をオープンさせたという。「料理を創作する上で大事なのは、やはり基礎ですからね。例えば、魚の旨みを引き出す調理法などの基礎がなっていないと、それは創作と言えるかも知れませんが料理とは言えません」。そんな渡邉さんは、辛子明太子と焼き鮭を組み合わせた「鮭明太」を考案。鮭の甘味と明太の辛味が絶妙に絡み合うその「鮭明太」は、新たな博多の名物として人気を博している。「料理は怠けたら客の入りに直結しますので、店のメニューは毎日20品変えています。ウチは常連のお客様が多いので、少しでも飽きさせないようにする為に工夫しています」。しかし、「なごみ」が常連客の心を掴んで離さない理由は、それだけではない。「僕が昔、飲みに行った店での出来事なんですが、僕がその店に行って2回目の日に、名前も教えていなかったのに大将から“太〜”て名前で呼ばれたんですよね。僕はこの店で特別なんじゃないかな〜と思って、それが凄く嬉しかったんですよね。ですから、僕もお客様を呼ぶ時は、必ず名前で呼ぶようにしています。もちろん年上のお客様の場合は違う対応をしますが、1度覚えた名前は忘れませんし、そうしてお客様に、この店で自分は特別な存在であるという気持ちを味わって頂いています」。また通いたくなる店と、そうでない店の違いは、味の良し悪しだけではなく、雰囲気や接客もある。そして、店主の人となりも大きくモノを言う。渡邉さんは名前で呼ぶだけでなく、常連客には専用のコースターを手作りする他、記念日などには料金を頂かないこともあるという。訪れる客にとって特別な店であるように。そう願う渡邉さんの客への心配りは、まさに和める「なごみ」の名にふさわしいモノだった。「常連客の方が、“ただいま”と言えるように。そして、私たちがお帰りと迎えられるように、和める空間でありたい。ですから店名が“なごみ”なんですよね」。
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