匠の蔵~words of meister~の放送

ペンドック健康堂【老舗万年筆専門店 宮崎】 匠:荒川幸子さん
2015年02月28日(土)オンエア
宮崎市内の繁華街の一角で、昭和初期より営業を続ける老舗万年筆専門店『ペンドック健康堂』の三代目、荒川幸子さん。『健康堂』の屋号は、“人間の体と同じく万年筆も健康に”という想いを込めて、初代である荒川さんの祖父が命名。その屋号に違わず、荒川さんは南九州で唯一、万年筆の健康状態を診断し、修理する技術をもつ万年筆マイスターとして、新品の万年筆を販売するのみならず、古い万年筆も修理。その卓越した技術は“健康堂で修理できなかったら、もう直しようがない”と評されている。
「万年筆に興味をもったのは幼稚園に通っていた頃、クリスマスにサンタさんからプレゼントされてからなんですよ。書き方によって様々な表情をした字が書ける万年筆って面白いな〜と。そして、高校生の頃には家業を継ぎたいと思うようになりました」。そんな荒川さんは東京の大学を卒業後、故郷の宮崎に戻り、二代目である父親の他界を期に店を継ぐことになったという。
「宮崎が大好きでしたからね。そのまま東京で働こうとは思いませんでした。父は私に家業を継がせる気はなかったみたいですが、私は万年筆が大好きでしたので、代を受け継ぐまではメーカーで修業しながら腕を磨いていました」。万年筆には表と裏があり、表で書くと太い字が、裏で書くと細い字が書けるという特徴があるが、荒川さんはそのような字の多様性に、万年筆の最大の魅力があるという。
「最近は太い字、細い字を書き分けるような万年筆の持ち方を知らない子どもが増えましたよね。でも、そのような特徴があるからこそ、万年筆はボールペンより味のある字が書けて、相手に自分の気持ちを伝えることができると思うんですよ。今はパソコンやメールなど、キーボードを押して文章を作るのが主流の時代ですよね。でも、そんな時代だからこそ、誰かに手紙を送る場合などは特に、万年筆を使って、紙に自分でちゃんと字を書くことを大事にして欲しいな〜と思います」。文明の発達によって生まれた道具は確かに便利かも知れないが、だからこそ昔ながらのモノも大事にしたい。なぜなら、その万年筆は例え下手でも便利な道具の何倍もの気持ちを文字に込められる、伝えてくれるモノだから。
「学生の頃に先生が『白い紙に文字を書くと、その文字が命をもらうんです。ですからやはり文字はキレイに書きましょう』と仰ったんですよね。その言葉が今でも頭の中に残っているんですよ。私はそういう道具として一番適しているモノが、万年筆かな〜と思っているんですよね」。そうして人の気持ちまで伝えてくれる万年筆を修理し続ける荒川さん。しかし、その仕事は、ただ壊れた部分を修理するだけではないという。
「万年筆は何十年も使えるモノですから、祖父母が使っていたという万年筆の修理を依頼されることも多いんですよ。例えばお姑さんが生前、メモを取るのに毎日使っていたという万年筆を修理して欲しいと持ってきたお客様がいらっしゃったのですが、その万年筆にはお姑さんの思い出が一杯詰まっていますから、修理して差し上げると本当に嬉しそうにされていたんですよ。万年筆はそんな思い出まで甦らせてくれるモノですから、私もただ修理するのではなく、その万年筆をもっと好きになって頂けるように、もっと愛情を持って頂けるように、そして、以前より書きやすくなりましたと言って頂けるように心がけて修理しています」。荒川さんの生まれた11月26日は、偶然にも詩人であり小説家の島崎藤村が初代会長である『ペンクラブ』が結成された『ペンの日』だという。そんなペンの申し子ともいえる荒川さんの座右の銘は、『おかげさま』『感謝』『ありがとうございます』という三つの言葉だった。

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