匠の蔵~words of meister~の放送

尾道牧場【畜産 大分】 匠:尾道一太さん
2013年02月23日(土)オンエア
風光明媚な耶馬溪の山間の牧場で、『豊後牛』などの肉用牛の肥育を手がける『尾道牧場』の尾道一太さん。豊後牛生産者協議会長を務め、肥育家のリーダーとしての役割も担う。「国産牛肉の中で和牛と表示できる品種は、黒毛和種、褐毛和種、日本短角種、無角和種の4種類ですが、中でも黒毛和牛は霜降りの入った柔らかい肉質で、世界最高の肉用牛品種とも言われています。豊後牛は、そんな黒毛和種を大分県内で生産した牛肉のことを呼ぶんですよ」。その味は、まろやかでトロけるような風味が特徴。過去には和牛のオリンピックと称される『全国和牛能力共進会』の肉牛の部で、日本一の内閣総理大臣賞に輝いたこともある。「周囲を山に囲まれた耶馬溪は林業が盛んな土地柄で、親も林業や椎茸栽培をしていました。私は30歳の頃に実家を継ぐために戻ってきたのですが、アメリカで畜産の勉強をしていたことなどの理由から肉用牛の肥育を始めたんですよ」。そうして140頭で始めた経営は好景気の波に乗り、順調に規模を拡大。一時は500頭を超える牛を肥育していた尾道さん。しかし、2001年の牛海綿状脳症(BSE)騒動が経営に影を落とす。「BSE騒動によって牛の市場価格が3分の1まで下がり、何度もやめようと考えました。しかし、日本人が牛肉を食べなくなることは絶対にないと信じ、ピンチの後は必ずチャンスがあると希望を捨てずに前に進み続けてきたんですよ」。そうして尾道さんは美味しい牛肉を作るため、牛に与える飼料や配合の割合を調整しながら独自の研究を重ね、『全国和牛能力共進会』の大分県代表牛を数多く輩出。現在は230頭の牛を肥育する。「元来、牛は草食動物ですから穀物を食べて太るのではなく、草を食べて太る動物なんですよね。私も最初の頃は、そのことを忘れ、子牛を買ってからすぐにトウモロコシや大豆や麦などの農耕飼料を与えていたんですよ。しかし、やはり始めの3ヶ月ぐらいは、良質の草類やワラなどの粗飼料を与えた方が、後半、素直に太るんですよ。そうして胃袋作りの大切さに気付いてからは、粗飼料の量や与える期間の研究に時間を費やしています。しかし、牛の個体によって全部が違ってくるように、マニュアルを作ることが難しいことですから、奥が深いというか、なかなか正解が見つかりません」。何事も原点を見つめ直せば、おのずと答えは見えてくる。しかし、肥育は生き物が相手だけに、その答えが一つではないから難しい。「常に考えるのは、自分の見立てた牛が、素直に健康に太ってくれるかということですね。質の良い肉に育つ牛は血統で決まる確立が高いのですが、決して、それだけではありません。餌はもちろん、飼育環境を美しく保つなど、人間のやれることもたくさんあると思います」。肥育家の仕事は出荷時期を見極めつつ、牛を1日に0.5キロから1キロも太らせないと成り立たないという。牛への感謝の気持ちを忘れずに、良いときも悪い時も、日々、健康に牛を太らせることに尽力し続けてきた尾道さん。その座右の銘は『継続は力なり』だった。

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