宮崎の城下町、飫肥で300年の伝統を誇る厚焼き玉子の名店「間瀬田厚焼き本家」。ここの厚焼き玉子は、厚焼き玉子との名称が正しいのかどうか悩んでしまうような全く未体験の味だった。プリンを連想させる甘〜いお菓子のようであり、料理のようでもあり…。十代目・泰衛門さんは、そんな間瀬田厚焼き玉子の歴史を教えてくれた。「間瀬田の厚焼き玉子は、かつては飫肥のお殿様の献上品として作られ、上級武士の花見や月見の宴で珍重されたものなんです。ですから代々伝わる製法は、秘伝の製法として扱われ門外不出なんですよね。そして、今では代々の秘伝が重ねられとても大変です」。それぞれ代を受け継いだ人物が、それぞれの秘伝を生み出し、それを加えて行く…。そうして受け継がれてきた厚焼き玉子だが、泰衛門さんは、未だに完成形では無いと言う。「完成ちゅうのは、生涯ないと思います。年に1回か2年に1回位、これでもう完成じゃないかって言う時がありますけどね。やっぱもう何日かすると駄目です。もっと良いのが出来るっていう感じになりますね。その繰り返しです」。もしかするとその違いは私達には分からない程、微妙で繊細なものなのだろう。しかし、そのようなこだわりの中から誕生した間瀬田厚焼き玉子の味は、本当に微妙で繊細な、まさにお殿様に愛された味だった。そして、そんなこだわりの匠、泰衛門さんの夢は意外なものだった。「夢は結婚したいっちゅうことですかね。この道一本でやって来たので結婚なんて考えてなかったのですが、この年になると…ちょっと寂しいですね」。
| 前のページ |