2012年、フランス・パリで開催された国際製菓コンクール『ル・モンディアル・デ・ザール・シュクレ』で、世界一に輝いたパティシエ、芋生玲子さん。東京で10年間パティシエとして活躍した後、去年、故郷の宮崎市の住宅街に、念願の店『パティスリー アンオー』をオープンさせる。
「大阪の製菓学校を卒業後、私は京都や福岡のカフェで働きながら、1年ごとに宮崎との間を行ったり来たりするなど、何をやっても長続きしない中途半端な生活を送っていたんですよ。当時からいつか自分の店を大好きな宮崎に開くのが夢だと語っていたのですが、それは夢を持っている人に見られたいとか、親を説得しやすいといった理由だったんですよね。そんな志で、自分に足りないモノを宮崎の外に求めても、長続きするハズがなかったんですよね」。そんな芋生さんは27歳の時に、「これではダメだ」と、一念発起し東京へ。食べ歩きを行う中、吉祥寺の名店『アテスウェイ』で食べたケーキに衝撃を受け、その場で店の人に履歴書を渡したという。
「ケーキの味も衝撃的だったのですが、その店ではショーケースにケーキを飾る専門の人を配置するなど、これぞプロという仕事をしていたんですよね。多分、中途半端だった時期に、この店を訪れても、そのすごさを感じることが出来なかったと思うんですが、その時は、この店には私が求めていたモノがあると強く感じることができたんですよね。」。その後、芋生さんは『アテスウェイ』で店舗の厨房とホールを取りまとめるスーシェフに抜擢されるまで活躍。同時にコンクールへの出場を重ね、競争の場で自らの感性を磨いてきたという。
「オーナーシェフはアメ細工のコンクールで世界一に輝いたことがある人物だったのですが、東京の店には、その他にも世界一が2人もいた為、世界一というのは、そんなに特別なモノではなく、自分の中だけのモノと思っていたんですよね。でも宮崎に帰って来てからは、多くの人が世界一ということで私の味を求めてくれる。その人たちの期待を裏切らないようにしないといけないと常に思っています」。そんな芋生さんは、自らの店は、「間違いなく美味しいモノが食べられる店であること」を、常に心がけているという。
「私が大事にしているのは、ケーキ屋さんだから甘いモノを作るという意識ではなく、例えばナッツのケーキであれば、きちんとナッツの味が分かるように、オレンジのケーキであれば、きちんとオレンジの味が分かるように作ることなんですよね。素材の味がきちんとすれば、ただ甘いだけのケーキではなく美味しいケーキが出来ますからね。ですから私は、なんとなく甘くて美味しいといった、ボヤボヤした味のケーキではなく、本当に美味しい味のケーキを提供できるように心がけています」。甘さで語られることの多いケーキだからといって、その甘さにこだわるのではなく、料理のそれのように、きちんと素材の味がする、美味しいケーキにこだわる芋生さん。甘いイコール美味しいではないと、甘さに逃げることなくケーキを作る芋生さんだからこそ、その店は、いつも多くの地元の人たちで溢れているのだろう。
「宮崎が大好きですから、私が東京で衝撃を受けた味を、宮崎の人たちに味わって欲しいんですよね。
ふらっと店に来てケーキを食べた人が『うわ、なんや美味しいやん』って言う。それが本当に一番、嬉しいことですね」。そんな芋生さんは、「お客さんから頂いたお金はお客さんの為になるモノに投資するべき」と、ショーケースを増設したり、冷蔵庫を大きくしたり、これからも店をもっともっと進化させたいという。フランス語で『上に』という意味をもつ店名の『アンオー』の言葉通りに、芋生さんの店は、地元、宮崎の人たちに感動を与え続ける店として、どこまでも上に、上にと登って行く。
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