全国八幡宮の総本社・宇佐神宮の影響を受け、かつて「六郷満山」と呼ばれた仏教文化が栄えた国東半島で、木工製品を製作する工房「くにさき六郷舎」の代表・恒成哲三郎さん。素性の良い北海道の木材と個性ある地元の広葉樹を適材適所で使い分けながら、孫の代まで使用できる家具や小物など製作。木目や色をそのまま生かした柔らかい曲線美が特徴のデザイン性の高い木工製品は、日本全国の人々から高い評価を受けている。「20代の頃、5年間かけて、東南アジアやヨーロッパ、アフリカ、インドなど世界60カ国を放浪したのですが、その時に出会った、ドイツの合理的な家具作りに魅了されて現在の仕事を志したんですよね」。その後、恒成さんは長野県の「上松技術専門学校」で木工技術を習得。「どうせ住むなら世界一素晴らしい所に住みたい」と考え、北海道から沖縄まで全国を回り、生活の場として国東を選ぶ。「海外、日本と様々な地域を見てきましたが、国東ほど素晴らしい場所はないと思いました。手付かずの自然が溢れる里山やテトラポットやコンクリートに固められていない海岸線など、福岡出身の私にとって、国東は故郷ではないのですが、どこか故郷を感じさせる安堵感があったんですよね。歴史と文化もある、ここは、私にとってかけがえのないパワースポットです」。そんな素晴らしい環境で、恒成さんは木工製品作りに没頭。客のニーズを反映させた数々の新しい商品を発表する。「私の作る木工製品は芸術品ではありません。お客様のニーズを反映させた、お客様が求める商品です。その為には、製品を手早く作ることが大切です。手をかけ過ぎるとコストもかかり、お客様が求める値段では販売できませんからね。職人と素人の違いは、製品を製作する時間にあると思います」。職人としての頑固な一面を見せる恒成さん。そんな職人として譲れないモノ、職人としての自信は、やはり旅がもたらしてくれたと言う。「世界中を旅して、色んなモノに触れると、自分の中に比較するモノが増え、やはり本物が見えてくるんです。次の国から次の国へとわたって行くと、多くの光っているモノに出会えるんですよね。ですから、そうして色んなモノに触れた目や手は、自分にとっての揺るぎない定規のようなモノなんです」。様々な経験によって、目が本物を見極め、手が本物の仕事を覚える。旅によって培われた恒成さんの生み出す木工製品は、まさに本物だけが持つ光を放っていた。
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