福岡は博多の繁華街・中洲で、玄海灘で獲れたオコゼの天然物を扱う創業38年の老舗「六三亭」。オコゼとは、主人の三原英一さん曰く、「顔は不細工だが味は良し」という、まさに「人は見かけによらず」という諺を体現している白身魚だ。その味は、春から夏にかけての旬の時期には、フグをも上回ると言う。しかし、この「六三亭」が、博多の人に長く愛され続けている理由は、その味だけではない。「38年続いた原動力っていうのは、やっぱり嘘をつかんちゅう事でしょうね。ウチは死んだオコゼは一切出さないからね。死んだオコゼを買ってくれば、原価的には安く上がって儲ける利幅も大きいかも知れないけど、このオコゼの造りっていうのはね、本当に味がコロッと変わるんです。伝統というのは信用だから、六三亭が細々とですけど続いて来ているっていう事は、単純な話だけど、やっぱり嘘をつかんちゅうことですね」。今でこそ、その味が認知されてきたオコゼだが、昔は食べる人が少なかったそうだ。そんな時代を乗り越え、今も中洲に暖簾を掲げる「六三亭」の魅力は、それだけではない。「それとやっぱり、皆のチームワークですよ。食べ物っていうのはね、いくら味が良くても店の雰囲気とか従業員の接待とかね、そういうので半減しますからね。味プラスその店の雰囲気ですね」。伝統というと、質を守ること、しきたりを守る事という話が多い。でも「チームワークも大事だ」という三原さんの言葉は新鮮だった。伝統ある店は敷居が高いイメージがあるが、「六三亭」の伝統は、お店への入り易さ、店の中の心地良さまでを含んでのモノ…。匠のそこまでの気配りには、感動させられた。
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