匠の蔵~words of meister~の放送

久保田運動具店【型付け師 福岡】 匠:江頭重利さん
2014年06月28日(土)オンエア
『スラッガー』の名称で知られる野球グラブ製造メーカー『久保田運動具店』の型付け師、江頭重利さん。型付け師とは、新品のグラブを使いやすいように型を付け、柔らかくする職人のことで、『東の坪田信義(ミズノ)、西の江頭重利』と称される日本を代表する型付け師である江頭重利さんの技術は、長年、一流のプロ野球選手たちからも支持されている。
「私は野球なんてやったことがなかったんですよ」。佐賀商業高校を卒業後、1952年にスポーツ用品の小売をしていた『久保田運動店』に就職し、プロ野球では当時の南海、近鉄、阪神、中日、広島、西鉄などの営業を担当していたという江頭さん。そこで選手の練習を見ることや選手たちの意見を聞くことで、守備の理論を積み上げていきたという。
「ちょうど、その頃、ウチでも野球製品の製造を行うことになったのですが、当時、西鉄で活躍していた豊田泰光選手から『私は下手やから、絶対にエラーせんグラブを作ってくれ』と言われまして、それからは、ガスコンロでグラブを温めたり、ボールを挟んだグラブを万力で締め上げたり、試行錯誤を重ねながら、何度も持っていっては、意見を聞くの繰り返しで、頑張ってきました。そこで諦めなかったから今があると思います」。そうして江頭さんは、ハメた時の素手との一体感と、ボールの捕球感の優れた『素手感覚』のグラブを追求。81歳となった今も現役でグラブの型付けを行う傍ら、その過程で辿り着いた守備の理論を、大学生やプロの選手たちにもレクチャーしているという。
「私が選手たちに説く守備理論の基本は、手の真ん中で捕れということなんですよね。多くの人はグラブの網の部分でボールを捕のですが、そうするとボールが跳ねて、送球に移る動作も遅くなるでしょう。ですからグラブの中にある手で捕ることを意識させるんですよね。それは一人でも、毎日、グラブにボールをポンポンと投げることで身につく技術なんですよ。対して私は、そんな選手たちの為に、手の真ん中で捕れるように、グラブに型を付けるという訳です」。豊田選手との交流以来、常に新しい技術を模索し続けてきたが故、「夜も寝言を言いながら手を動かし、家族から気持ち悪がられるんですよ」と笑う江頭さん。そうして積み上げてきた『努力』は、江頭さんの座右の銘になっているという。
「私はサインを求められた時には、必ず『三つの努力』という言葉を名前に添えるんですよ。努力に努力を重ねるという言葉は、普通、誰もが使うじゃないですか。でも私は、そこにさらに努力を重ねることが大事だと思うんですよ。昼間、努力に努力を重ねた後、さらに夜、家でも努力を重ねることは可能ですからね」。型付け師として最良の形に指が変形するまで、昼夜を問わず三つの努力を重ね、2013年には野球グラブの加工工として黄綬褒章を受章。今も多くの選手たちのファインプレーを支え続ける江頭さん。そんな江頭さんが型付けしたグラブを使うある一流のプロ野球選手は、こんな言葉を残したという。『スラッガーのグラブには関節がある』と。

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