江戸時代に長崎・出島から江戸へ向けて砂糖が運ばれた事から「シュガーロード」と名付けられた長崎街道が走る佐賀市の中心に店を構える甘味処「しるこ 一平」。活動写真の弁士だった先代が廃業を機に昭和6年に創業し、現在は二代目の高島良邦さんが店を継いで40年になる。「私が店を継いで先代である父の時代より長くなってしまいました。この店の味を評価してくれる人は沢山いますが、やはり経験を詰む事は大切だと思います。味のセンスは経験によって磨かれていくと思います」。そんな高島さんのセンスが凝縮されたお店には、「しるこ」「ぜんざい」「みつ豆」「宇治金時」と、昔ながらの甘味メニューが並ぶ。中でも雑穀である粟に小豆の餡をかけた「あわぜん(粟ぜんざい)」は、地方発送も行われている程の人気メニューだ。「ウチは粟100%を守り熊本県の産地から仕入れているのですが、昔、米の代用品だった粟は、今では健康志向の高まりから米より高価になってしまいました。もちろん『あわぜん』もオススメですが、春には春の夏には夏の…季節ごとに甘味を味わって欲しいですね」。そんな高島さんは、「甘味は材料」と厳選した材料にこだわり、今も愚直に手作りで伝統の味を守り続けている。「よく『あまり甘くなくて食べやすい』とか『甘さ控えめで丁度良い』なんて言う方がいますが、私は甘い物は甘い方が良いと思っているんです。甘さには色々な甘さがあるんですが、質の良し悪しは後味に表れます。良い甘さは、甘味が舌の上を流れるように、後味がサラっとしているんですよ。ですから後口に残る甘さと、サラッと後口に残らない気持ちイイ甘さと、甘さの意味が全く違うんです。ウチは後口に心地良く、甘いけどいつまでも尾を引かない甘さを目指しています。そして、良い材料を使うと、必然的にそういうものが出来上がるはずです。ですから、甘味処であるウチの商品は甘いんです」。元々甘い物なんだから、しっかり甘く、ただし甘さの質のこだわる高島さん。甘さを決める量の調整は簡単だが質の調整は難しい。そう甘過ぎない物を作るより、ちゃんとした甘い物を作る方が難しいのだ。「材料にこだわると原価がかかります。でも甘味は嗜好品ですから値上げは出来ないんですよね。ただ手を広げると、広げるだけ味が落ちると思っていますので、今後は細く長く、雰囲気が大好きなこの店で、体力が続く限り頑張ります」。昭和初期の趣が色濃く残る店内で、高島さんはそう言葉を結んだ。
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