電力、通信、鉄道、銀行など、様々な企業の特注品の鞄を主に手掛ける老舗『丸山革具店』の二代目、橋口康隆さん。丈夫で長持ち、使い勝手を追及した製品を一貫して手作りで製造。近年は鹿児島市電運行100周年を記念して製作した復刻版の『車掌鞄』が全国的に人気を集めているという。
「『丸山革具店』は昭和22年に皮革製品製造修理屋として開業して、今年で67年になります。当時は馬具や馬飾りなどを製作していましたが、都市の近代化と共に馬具の需要が減少して、鞄や袋物の製造に転向したんですよね。私は結婚3年目に義理の父から代を受け継ぎ、長年、この仕事に従事してきましたが、職人はいつまで経っても一人前になれないというのか、どんなに素晴らしい製品が完成しても、『上手く出来たな』と思うだけで、まだ上がある、まだ上があると、どこまでいっても満足することはないんですよ」。そんな橋口さんの職人としてのプライドと、飽くなき探求心から生まれる製品は、その道のプロたちから半世紀以上も支持されているという。
「『丸山革具店』の製品というのは丈夫で長持ちするというのが一番のウリで、そのような理由で長年、企業とお付き合いさせて頂けていると思うんですよ。特に電力会社の作業員などは、高い場所に登って作業をしますので、鞄が壊れると、とても危険なんですよね。また銀行員などは、雨の日も陽射しが強い日も常に鞄を外に持ち運ぶじゃないですか。そうすると何より丈夫で長持ちする鞄が重宝されるんですよね。そして、万が一壊れたとしても、ウチでは必ず修理を受け付けます。修理を受け付けるということは、とても大切なことで、そうすることによって、どこが傷みやすいのか、その鞄の欠点や弱点が見えてきますからね。僕らはそういう部分に工夫を加え、さらに製品をレベルアップさせることができるという訳です」。橋口さんは自社で製造した製品以外の修理も、「勉強になる」と、積極的に受け付けるという。そうして、まさに一生モノの鞄を作り続ける橋口さんは、それ故に、こんな悩みがあると笑う。
「お得意様との雑談で、『今は、なかなか注文が来ないよ』と嘆いたら、『丸山さんがあまりにも丈夫で長持ちする製品を作るからだよ』と言われたことがありまして。でも、それがウチの製品のウリですからね。それでも満足できなくて、100年でも200年でも、もっと長持ちさせてやろうと思いますもんね。正直、これ以上、手間を加えると採算が合わないという場合でも、丈夫になる方法がひらめいたら、手を加えずにはいられないんですよね」。現在は焼酎専用のトートバッグ、携帯電話やペットボトル飲料などを収納する鞄など、企業向けのみではなく、個人向けの新商品の開発にも力を注いでいるという橋口さん。その座右の銘は、橋口さんの職人としての生き様そのモノである『ひと手間』という言葉だった。
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