熊本市の中心部にある本格イタリア料理店『リストランテ・ミヤモト』のオーナーシェフ、宮本けんしんさん。19歳でイタリアに渡り、『ヴィッラ・ロンカッリ』『ラ・テンダ・ロッサ』『ラ・シリオラ』といったミシュランの星つきレストランで8年間修行した後、2006年に現在の店をオープン。落ち着いた大人の雰囲気の店内で、熊本の食材を使った四季折々の本格イタリア料理を提供する傍ら、生産の現場にも積極的に出向き、生産者と協働して熊本の食文化の向上にも尽力。2011年に食と農を繋げる活動を行う料理人を表彰する『料理マスターズ』に九州で唯一選出される。「イタリア料理というのは、この世に存在しないんですよね。フィレンツェ料理やトスカーナ料理など、地域、地域の都市国家の伝統料理の集合体を単にイタリア料理と呼んでいるに過ぎません。イタリアは地域、地域の独自性や伝統、歴史を重んじる国で、ジェノバに行ったらオリーブオイルの香りがする、ミラノに行ったらバターの香りがするように、そういう精神が料理にも物凄く反映されているんですよ。ですからイタリアには、自分たちの地域の食の伝統を守るという精神が、スローフードなどと関係なく、もともと土壌的にあるんですよね。そういったことが、今の僕の活動の原点にあると思います」。熊本の食の歴史や伝統、そして、四季の中で紡がれる宮本さんの料理。それは、イタリア料理という名をした熊本の郷土料理とも呼べる。「数年間かけて、全国の食材と熊本の食材を比較、研究してみたのですが、豊かな自然と大地を誇る熊本の食材は、そのどこの食材にも負けていなかったんですよね。料理人には都会で腕を振るう『都の料理人』と、食材の産地で腕を振るう『産地の料理人』の2種類いると思います。僕は全国から食材を集め洗練された技術で料理を振舞う『都の料理人』と違い、『産地の料理人』ですから、一料理人として生産者を支えていくのが役目だろうと考えた訳です」。そうして、生産者への支援やアドバイスを積極的に行い、日々、熊本の食材の付加価値の高めようと活動する宮本さん。その姿勢には、一切の妥協がない。「例えば、物凄く農法や技術に自信のある生産者の人にも、美味しくなければ、僕は率直にそう言います。農法で話をすると情が入り、この人はこれだけ苦労して作っているので、美味しいと言ってあげたくなるんですよね。しかし、やはり僕は美味しい食材、付加価値の高い食材を作って欲しいということで、色々と言わせて頂いています。農法が違うとか、体にイイ食材だとか言われても、やはり消費者の方は正直というか、美味しくなければ食べませんからね。ですから僕は地元で採れた食材でしたら何でも良いという、地産地消という言葉に甘えたくなかったんですよ」。安心、安全、そして、地産地消...そんな耳に優しい言葉に甘えることなく、生産者と消費者の中間にいる一料理人として、さらにその上を目指す宮本さん。その根底には、食で地元を元気にしたいと願う、宮本さんの地元への感謝の思いがあった。
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