匠の蔵~words of meister~の放送

元吉製作所【碁笥 宮崎】 匠:元吉弘行さん
2011年07月16日(土)オンエア
囲碁の碁石を入れる器、碁笥(ごけ)を製作する九州で唯一の碁笥専門店「元吉製作所」の3代目、元吉弘行さん。「宮崎ろくろ工芸」の名称で伝統工芸品の指定を受ける伝統技を先代の父から受け継ぎ、自然の木目を最大限に生かした碁笥を製作。中国製品の台頭で市場が縮小する中、その芸術性で他の商品を圧倒する。「13年前までサラリーマンをしていたのですが、楽しそうに仕事をする父の姿にやりがいを感じ転職しました。しかし、職人は簡単そうに仕事をしますが、実際に自分でやってみると本当に難しかったですね。南九州は綺麗な桑(くわ)や欅(けやき)の木が多いですから、今は自らの技術を高めるのと同時に、その素材の良さを損なわないように、きめ細かな作業を行う為の刃物製作や研ぎ方の技術も同時に深めています」。そんな元吉さんは、「師匠から邪道と言われようが、木の魅力が多くの人に伝わるのであれば作っていきたい」と、現在、碁笥以外にも装飾用の木のサッカーボールや、木とガラスと組み合わせたオリジナル製品なども製作。既存のスタイルに捉われない柔軟な発想が、新たな木工製品の未来を切り開いている。「木工の技術というのは奥深く、それまで出来なかった技術が、ある日突然出来るようになることがあるんです。その感覚を味わう為には、やはり何度も何度も失敗を重ねていくしかありません。失敗してナンボではないですが、やはり失敗しないと技術が上達しないんですよね。例えば、刃物の当て方一つでも、こうすれば引っ掛かるなとか、傷が付くなというのは、すべて経験でしか掴めません。そうして、ここまでやると失敗するというギリギリの線を感覚で掴み、そこに向かって綺麗に削っていけば、一番、良い仕事が出来ると思います」。成功と失敗が紙一重の中にある美しさを追求し、薄皮を剥ぐ様な微妙な感覚を、何度も何度も失敗を繰り返しながら手に入れた元吉さん。気がつくと、ある日、突然訪れるという職人としての至福の瞬間は、たゆまぬ努力を続けた者のみが味わえる。

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