匠の蔵~words of meister~の放送

松屋菓子舗【鶏卵素麺 福岡】 匠:松江光さん
2010年07月10日(土)オンエア
日本三大銘菓に数えられる博多の伝統菓子「鶏卵素麺」を製造・販売する創業330有余年の老舗菓子店「松屋菓子舗」の13代目・松江光さん。「鶏卵素麺」とは、沸騰させた糖蜜の中に卵黄を糸のように流し込み、すぐに引き上げ、余分な蜜が落ちた後に切り揃えるポルトガル伝来の南蛮菓子の味を、
初代・松屋利右衛門が伝授されて以来、一子相伝の変わらぬ製法と吟味を重ねた素材で守り続けている。「私や前社長である父は、お菓子作りの第一線である製造ではなく、会社全体の経営を担っています。では、『鶏卵素麺は一子相伝ではないのか』と言われますが、そうではなく、一子相伝とは、創業者から連綿と続く、気持ちの継承と言うところが大きいのではないのかと考えています。先代たちが、どのような気持ちで作ってきたのか、どのような気持ちで商売をしてきたのか、その気持ちを一族として受け継ぎ、鶏卵素麺を製造・販売しているという訳です」。しかし、そんな鶏卵素麺の素材は、時代と共に常に変化していると言う。「名前こそ鶏卵素麺ではあるのですが、これは素麺を模したお菓子ですから、基本は卵です。卵はいま様々な種類がありますが、ただ美味しいだけでは鶏卵素麺の素材には適していません。美味し過ぎないと言うと語弊がありますが、バランスのとれた鶏卵素麺に適した卵というのを、そのつど状況によって探して来ています。私たちは300年前のことは分からなくても、昨日のことは分かっている訳ですよね。それが同じようになる為の調整というのを図りながら、素材を選ぶことが大事ではないかと思っています」。創業以来、変わらぬ味という言葉はよく聞くが、それは、そのつど素材を厳選し、昨日、今日と味を受け継いできた人たちの毎日の努力の積み重ねの上にある。「京都に200何十年続く鯖寿司のお店があるのですが、京都の方が、そこの鯖寿司を買われた時、大将に『お味がまったく変わりおへんな』って言われるそうなんです。もちろん大将は『おおきに』と応えるですが、『そんなことはない』と心の中で思うそうなんです。鯖も違いますし、お酢も、お酒も何もかもが違う訳ですよ。ですから200年もの間、鯖寿司が同じ味になる訳がありません。しかし、そのつどお客様に、そのようにおっしゃって頂ける努力を、私たちはしなければいけないと思います。ですから、そういう意味で言うと、実際は変えている訳ですよね。しかし、『変わらないよね』と言われるような矛盾することを、私たちの内の中でやって行くということが、続けて行くということになるのかも知れないですよね」。伝統あるお菓子には、例えば子どもの頃…父の知り合いが訪ねて来た時に、紫の風呂敷から、うやうやしく受け取って食べた思い出などが詰っている。味は時代とともに変わるかもしれないが、そんなお菓子のイメージ、シュチエーションなどは時代が経っても変わらない。店構えに接客に包装紙まで、人は様々な情報を元に、その味を「懐かしい」と感じる。「初代は330有余年も続く菓子店を作ろうと思い、鶏卵素麺を輸入したのかというと、とてもとても違うと思うんですね、もともと新しいモノを広めようとしたのが初代であったにも関わらず、私たちは代を重ねるごとに守るというだけになってしまっている。そんな初代の気持ちということを考えてみた時に、どのような形で、この代を続けていくかというところを考えなければならない時期に来ていると思っています」。40歳にして13代目を継いだ松江さんは、変えられるモノ、変えられないモノを見極めながら、新しい菓子の分野への進出も視野に入れて活動を行っていると言う。「鶏卵素麺」に加え、新た伝統が「松屋菓子舗」から生まれる日も近い。

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