福岡の明太子で知られる食品会社「椒房庵」が、「食の職人として、現代の食生活に提案出来る事を真剣に考えたい」との思いからオープンさせた自然食の店「茅乃舎」。福岡の中心部から車で約40分、初夏には蛍舞う渓流沿いの山間に見事な茅葺屋根の店を構え、地産地消を実践するだけではなく、自分達の手で野菜も栽培し、体に優しい料理を提供している。そんな「茅乃舎」の料理長・岡部健二さんは、「料理とは家庭の延長線上にあるものなんです」と言う。「家庭で考えると、自分の子供達に添加物や、いかがわしいモノが入った食事を食べさせる親はいないと思います。やはり体に良いモノを食べさせようと考えますよね。私達の料理は、お金を払ってお客様が食べに来られる訳ですから、美味しくて当たり前なんです。その中で、ただ美味しさを提供するという店ではなく、美味しさの中に体に安心・安全なものをお客様に食べて頂くというのが、僕の料理に対する考え方です」。手を加えるのではなく、いかに手を加えないか…足し算ではなく引き算の料理法で、素材の旨味を最大限に引き出す岡部さん。「料理人は大地には勝てません。料理人がエゴを出そうとすると、どうしても調味料の味になってしまいます。ただ料理を美味しく作る事より、良質な食材の味をいかに殺さずに作る事の方が、はるかに難しいと思います」。良質な食材で料理を作るのは地味ではあるが、美味しく作るよりも難しい。店で食べる口に美味しい料理より、母親が本当に子供の事を考えて作る料理を忘れないように。「奥さんの作った家庭料理が、やはり家庭では望ましいと思うので、家ではあまり料理を作りません。3人の子供達には、お母さんの手料理を食べて欲しいし、大人になってから『ああ〜お母さんの味ってこんな味だったな〜』と思い出して欲しいですからね」。そんな岡部さんが考案した出汁パック「茅乃舎だし」が、今、通信販売やネットショッピングで大人気となっている。インスタントの出汁と同じ位の手間で、本格的な料理店の味を家庭で再現出来ると評判なのだが、その味には、母が子供に対する思いにも似た、愛情という隠し味も含まれている。
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