明治時代から熊本は小国の静かな山間に店を構える「岡本豆腐店」。峠の茶屋的な雰囲気を持つ、この店の豆腐は、大きくて固い特徴を持つ。主人の岡本芳昭さんは、今流行りの柔らかい豆腐を作ったこともあるが、昔から贔屓にしてくれるお客さんから不評だった為、「岡本豆腐店」が「岡本豆腐店」である為、昔ながらの田舎豆腐一本で勝負しているという話をしてくれた。そんな岡本さんだが、今、豆腐店だけではなく、食事処、温泉宿と商売の幅を広げている。その裏には、岡本さんの、大きくて固い信条があった。「俺が一番大切にしているのは、人との出会いなんですよ」。岡本さんの名刺の裏には、「私はあなたとの出会いを大切な宝物にしたいのです。」と書かれてある。「やっぱり、出会いが無ければ先は続かんでしょ。人と出会い、色々な話を聞いたら、自分のプラスにもなるでしょう。だから、普通、日曜日はゴルフとか行く人が多いけど、俺は全然好かんとですよ。お客さんが社長おるか〜とか言って、お客さんが来るからですね。そん時は、コーヒーでも飲んでいきないちゅう感じですよね。気楽な感じで…」。岡本さんは、それが楽しみでもあるんですよね。という質問に「はい、そうです。」と大きな声で答えてくれた。涌蓋山麓の山深い国道脇に店を構え、誰が訪ねて行っても、いつもそこにいる岡本さん。街中にある訳でもないのに、その人がそこにいるということで、人が人を呼ぶ。そんな匠だった。
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