『懐かしさを味に込めて』をモットーに、長崎の伝統菓子『かんころ餅』作りに情熱を燃やす佐世保の老舗店『草加家』の2代目、高木龍男さん。
「創業者である初代社長が、東京で修行した『草加せんべい』を作り、九州各地で販売したことから『草加家』と命名しました。その後、長崎の伝統的な食文化を届けるべく、『かんころ餅』の販売をスタートさせたという訳です」。
サツマイモを茹でて干した『かんころ』に、もち米をつき合わせて作られる『かんころ餅』。長崎では昔から正月やハレの日に食べられてきたそうだが、今は生産者の高齢化や食生活の変化などをから『かんころ』を作る農家が減少し、品質も低下するなど、絶滅の危機に扮しているという。そんな中、高木さんは
「返品するのは簡単です。しかし、そうすれば生産者の『かんころ』を作る意欲が低下し、長崎の伝統食である『かんころ餅』そのものが滅んでしまいます」
と、不良品も含め全量買取りを決断するなど、様々な活動を通じ、長崎の食文化を守り続けている。
「『かんころ餅』を含め、良いモノは積極的に守らないとダメなんです。よく店が潰れた後に、『良い店だったのにね』と言う人はいますが、でしたら、潰れる前に何度も食べに行って店を助けようとしたのかと。僕は無くなった後に『良かった』と言われたくないんですよね。僕は『かんころ餅』の素晴らしさに気付いてしまったので、やってやろうと思った訳です」。
その香ばしい香りと素朴な甘さが、ノスタルジックな気持ちにさせてくれる『かんころ餅』。しかし、その魅力は味のみにある訳ではない。
「昔から家族全員でストーブを囲みながら食べられてきた『かんころ餅』ですが、そこには忘れられてしまった家族の団欒があったんですよね。『ほらほら』『島ではさ』『お父さんの子どもの頃は』とか言いながら、『アチアチ』と食べられてきた訳です。それが『かんころ餅』の一番重要な役割なんですよね。『かんころ餅』の栄養価や自然食品としての意味合いなども確かに注目されている部分ではあるのですが、もっと大事なことは、やはり食べ方にある訳です。残すべきは、モノではなく文化ですから『かんころ餅』だけを保存しても、食べ方そのものが消えてしまっては意味がないと思うんです。添加物を使わないとか、産地の明らかなモノで作るとか、体に良いモノを作らなければいけないというのは、他の商品もすべてそうですよ。でも、一番大事なモノは、やはり一言で言うと団欒だと思います」。家族全員でストーブを囲み、和気あいあいと食べられてきた長崎の『かんころ餅』。匠が守りたいと願うのは、『かんころ餅』ではなく、そこにある家族の団欒そのものだった。
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