今より2300年前、秦の始皇帝の命により、不老不死の薬を求めて徐福が筑後川下流の浮盃に上陸。その時にアシの葉が落ち、「エツ」にかわったという「エツ伝説」が伝わる地にある、創業70年の老舗割烹「津田屋」の三代目社長・津田良雄さん。佐賀県東部を流れる雄大な筑後川を望み、淡白ながらも上品な甘味と旨味が味わえる、佐賀を代表する初夏の味「エツ料理」を提供。5月から7月にかけてのエツ漁のシーズン中は、津田屋が買うか買わないかによって、エツの相場が変わるという。「お陰様で、エツ料理は津田屋というブランドがありますので、シーズン中は多くのお客さんが期待されてエツ料理を予約して下さいます。そこで、高いから仕入をやめるという訳にはいきませんよね。遠方より訪れるお客さんもいる中で、『今日はありません』とは言えませんからね。ですから、相場がどんなに高くても買い取ります」。ちなみに、日本では有明海奥部のみに生息し、産卵で筑後川などの河川を遡る珍しい魚であるエツは、小骨が多く、食べやすくする為には骨切りが必要。通常150回くらい包丁を入れるところを、「津田屋」では、250回から300回も入れると言う。「仮に300回を150回にすれば、早く済む訳ですから楽にはなります。しかし、それによって失われる信用は大きいですからね。格好良く言えば、エツは手間を食べて頂く…技術を食べて頂く料理だと思っています。仮に、エツが1匹100円だとすると、そのままでは150円では売れませんよね。やはり、そこに手が入るから300円になったり、400円になったりすると思うんです」。しかるべき経験と技術…センスのある人が調理しないと、エツの価値は100円のまま。自らの力で、エツの価値をどこまで高められるのかを知る津田さんのエツ料理は、刺身に塩焼きに南蛮漬けに…そして、最も調理が難しいとされ、ここでしか味わえないと言う天ぷらにまで、変幻自在に姿を変えて、極限までその価値が高められていた。「最近は、若い料理人に包丁とマナ板とエツを持たせて、お客さんの目の前で骨切りをさせる場合もあるのですが、そうすると、やはりお客さんは、『凄い』と褒めて下さいますよね。この手間と技術が、多くのお客さんを感動させているということを実感させることで、若い料理人にエツ料理に関しては絶対に負けられないという気持ちを植え付けています」。そんな津田さんだが、やはり料理の基本も忘れていない。「どんなにエツを切るのが上手でも、包丁を砥げない料理人は駄目ですね。技術も大切ですが、道具を自分で扱えてこその料理人ですからね」。そんな津田さんの座右の銘は、初代から伝わる家訓でもある「悲観するより努力せよ」。その努力の足跡は、「津田屋」の「エツ料理」に十二分に表れていた。
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