匠の蔵~words of meister~の放送

熊本ホテルキャッスル【老舗ホテル 熊本】 匠:斉藤隆士さん
2009年07月18日(土)オンエア
熊本城を一望する名門ホテル「熊本ホテルキャッスル」の代表取締役社長・斉藤隆士さん。故・陳健民氏の「四川飯店」で修行した後、1995年にホテルの四川料理店「桃花源」の料理長となり、その後、ホテルの総料理長を経て、2003年に料理人としては前例のないと言われる現職に就任する。7000人が加盟する日本中国料理協会では最高技術顧問を務め、孫弟子まで含めた斉藤門下生は全国に数千人と、日本の四川料理の第一人者として活躍しながらも、経営でも卓越した手腕を発揮し、熊本らしさをコンセプトに、地域を熟知する老舗ホテルならではのサービスを提供している。「私が東京から熊本に来て30年以上になりますが、自分が自慢できることは、熊本で誰よりもお客さんの顔を知っている事です。普通の料理人は裏でコツコツ料理を作るのみですが、私の場合は人が好きですから、とにかく暇さえあれば人と会っていました」。そうして料理界以外の様々な人脈を育んできた斉藤さんだが、それは師である故・陳健民氏の教えにあると言う。「料理の鉄人・陳健一の父である陳健民は調理場では一言も喋りませんでした。しかし、調理場から一歩踏み出すと、とても饒舌でお客さんの前で冗談を言う。それはまるで二重人格のようでしたよ」。調理場では厳しく、表のお客さんの前では愛想良く。確かに今、有名料理人と呼ばれる人たちは、どこか共通する優しい雰囲気を持っている。「無口は美徳ではないし、料理を説明出来ない料理人は駄目だと思っています。それとやはり、厳しい顔の料理人になってはいけません。今は優しい男が料理人なんですよ」。そんな斉藤さんに、良い料理人について尋ねると意外な答えが返ってきた。「私はプライドばかりが高くて、人真似が出来ない料理人が最低だと思っています。人真似が出来るという事は、その料理に自分のオリジナルをプラスして、さらに料理の完成度を高める事が出来るからです。人間はそういつもいつもアイディアが沸くものではありません。どこかに良い料理があるならば、それを真似してプラスアルファをしていけば、その人の料理人としての価値は数段上がると思います」。さらに斉藤さんはこう続ける。「食の細い料理人で名料理人というのを、あまり見たことがないですね。殆どの有名な料理人は飯を食べますね。料理の鉄人の道場先生など、あの歳でメチャメチャ食べますよ。ですから、やはり食べる力が強い人というのは、新しい発想の料理を作れると思います。小食の人は、あまり料理に没頭しませんからね。やはり皆、食べて相手の料理に何かを感じるんだと思います」。誰もが飯を食べるから、そこに差がないように思えるが、やはりこういうのが食べたいと思ったり、こうしたら料理がもっと美味いのにと思ったり、そういう食べ物に対するこだわりや欲望の強さが、食を仕事とする者の唯一の資格となる。「これまで相当苦労なさったでしょうねと、よく言われますが、私はそんなに苦労したとは思っていないんですよね。どの世界でも嫌なことはあると思います。しかし、好きでやっているのなら、それは苦労ではなく訓練ですからね。ですから苦労と思ってしまった時には、その仕事辞めればいいんです」。斉藤さんの話はどんな仕事にも言える。それは人としてハッとさせられた言葉だった。

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