匠の蔵~words of meister~の放送

ふもと窯 [小代焼 熊本] 匠:井上泰秋さん
2008年06月28日(土)オンエア
荒尾市の小岱山の麓で作られている国の伝統工芸品「小代焼」の窯元「ふもと窯」の陶工・井上泰秋さん。12の窯元でつくる「小代焼窯元の会」の会長でもある井上さんは、「小代焼の伝統を現代の暮らしに調和させ、暮らしの中に光輝くものを」をモットーに、日々、機能美を追求した作品を作り続けている。「小代焼は、約400年の伝統がありますが、昔と今では生活様式が違うので、伝統的な作品だけではなく、それぞれの時代のニーズに合わせた作品を作る事は当たり前だと思っています。ですから、昔はなかったビールジョッキも作りますし、コーヒーカップだって作りますよ」。そんな井上さんは、オブジェとして作られる陶器も美しいが、用を足してこそ生まれる陶器の美しさには敵わないと、使う人ありきの作品作りを心掛けている。「私の作品のこだわりは、花瓶だと花を入れて、いかにその花を引き立ててくれるかにあります。花瓶は花瓶、器は器で完成させてしまうのではなく、いかに花を入れて完成するか、いかに花が生きるかと言う事まで考えて作っています。花瓶は花瓶で完成させてしまうと花が生きない事が多いんですよね。ですから、生け花などの場合は、やはり花が生きる花瓶ではないと、本当の意味を成さないんじゃないかと思っています」。合理的な機能美の中に、本物の美を見る井上さん。「日用品としての目線の先に陶器がある」と考える井上さんのこんな言葉からも、その合理性が伺えた。「花瓶に花柄を入れる場合がありますよね。それに花を生ける必要はないんですよね。そこには、花が既に描かれている訳ですから、それで終わりなんです」。そんな井上さんだが、全てを合理的に考え、陶器を製作している訳ではない。ガス窯が主流となった今でも、伝統的な六袋の登り窯で作品を焼き続け、燃料には松薪、釉薬となる灰は木、藁と自然のものを使用している。「陶器というのは、火の神様というか、火の力を頂いて焼き上げている訳ですからね。やはり自然の力を信じていないと良い作品は生まれないと思っています。作品を窯から出して、納得のいかないと割ってしまう人がいますが、そんな人は、まだ焼く資格がないのではないかと思う場合もあります。その割られた作品が、かえって良かったりする場合があると私は思うんですよ。色などは特に、自分の思う色に焼きあがると思う方がおかしいんです。こういった色に焼き上がれば良いなと予測はしますが、他の色になっても、こんな色になってくれたと感謝の気持ちで見れば、また違うんですよね」。人はイメージしたものの範囲内でしかモノを作る事は出来ないと言うが、自分で枠を作り、その枠内の最高を求める人は、井上さんの言葉を借りれば工業製品を作ればいい。しかし、その枠を超えようとするならば、やはり自然の力に敬意を払い、自然が生み出す偶然を信じるしかない。そうでないと偶然はやってこないし、その偶然は必然となる。「一点一点同じうわ薬をかけて、すぐ横で焼いても、色合いが違ってくる。それが自然の力かな〜と思うんです。野菜で言えばですね、自然の露地栽培の野菜を採っていると思えばいい訳ですね」。

| 前のページ |


| 前のページ |