匠の蔵~words of meister~の放送

合名会社まるはら【老舗味噌醤油蔵 大分】 匠:原次郎左衛門さん
2015年07月25日(土)オンエア
かつて天領として栄えた日田の街で、明治32年の創業以来、変わらぬ伝統の技と心で味噌と醤油を製造する『合名会社まるはら』の四代目、原次郎左衛門さん。英語では『&CO.』と表記される『合名会社』とは、無限責任を負う社員のみで構成される古い会社形態で、今でも『ティファニー』を始め、イギリスのロイヤルブランドなどに多くみられるという。
「『まるはら』は日田市内の企業の中で、設立されたのが一番古く、その名残から『株式会社』ではなく『合名会社』を名乗っているんですよ。当時から味噌と醤油、そして閑散期である夏にラムネを製造して地域の人々に愛されてきました」。そんな『合名会社まるはら』の醤油は、現在、主に飲食店に卸されているそうだが、その数は福岡の飲食店の半分近くを占めるという。
「やはり料理のプロに使ってもらえるのは嬉しいですよね。『まるはら』の味がプロに認められたということですからね。そんな中でも今、注目されているのが『鮎魚醤』なんですよ。これは日田特産の鮎を使って作った天然調味料で、大分県産業科学技術センターと共同で開発したモノなんですが、魚醤特有の臭みが一切なく、素材の旨味と香りを引き出してくれるんですよ。魚醤に苦手意識を持っている人に、ぜひ試してもらいたいですね」。一般的に醤油は香りが強い為、食材の香りを弱めてしまうが、この『鮎魚醤』は魚醤の香りがすぐに消える代わりに、食材そのものの味を表に引き出してくれるというから面白い。
「2008年にパリで開かれた世界最大級の食品見本市に出品したところ、パリの三ツ星レストランのシェフが気に入って使ってくれるようになったんですが、その他にも『ホテルオークラ』の和食の料理長を始め、世界中の様々なプロから評価して頂いています」。魚にはタンパク質をアミノ酸に変えて旨味を深めてくれる良い菌と、嫌な匂いの原因となる悪い菌があるそうだが、原さんは発酵、熟成時に徹底的に温度管理を行ない、悪い菌の活動を抑制し、臭みのない魚醤の開発に成功。その技術は特許として認定されているという。
「美味しいモノを作りたいという想いが原点ですよね。そして、その美味しさは自分で判断するのではなくて、私は料理人の判断に委ねているんですよ。やはり最高の舌をもった料理の専門家に評価して頂ければ間違いがありませんからね。特に新商品を作る時などはパリの三ツ星レストランのシェフたちに味見を頼むんですよ。そうするとシェフたちから『まずい』とか『辛すぎる』とかFAXが送られてくるんですね。そうするとその意見を参考にしてまた作り直すと。その繰り返しで最終的に評価される商品が完成した時は、もう嬉しくて涙が出そうになりますよ」。美味しいモノを作る為には自らのプライドなんて関係ないと、一流の人間の舌に味を委ねる大らかさをもつ原さん。そんな世界が認める一流たちの妥協なきオーダーに応えることのできる技術もそうだが、その一流たちに愛される人柄も、原さんが匠たる所以なのだろう。
「若い頃はヒッピーのような生活をしていて、私の代になると『まるはら』は潰れると、よく人から言われたもんですが、もともと人がしないことをするのが楽しい性格なんでしょうね。美味しいモノを作りながら、常に前向きに進んでいきたいと思っています」。古い文献を紐解くと日本の醤油は、大豆や麦が原料の『穀醤』、魚が原料の『魚醤』、鴨肉が原料の『肉醤』、漬物(野菜)が原料の『草醤』の4種類に分類されるそうだが、現在、『まるはら』では『草醤』を除く3種類を製造。原さんは今後、今ではどこの醤油蔵でも作っていない『草醤』の製造にも取り組む予定だという。
「やはり醤油蔵として、まだチャレンジしていない醤油があると知ってしまったら作りたくなりますよね。ただその場合は、ただ珍しいから話題になる商品ではなく、もちろん美味しいから話題になる商品を目指して、頑張って行こうと思います」。

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