匠の蔵~words of meister~の放送

東郷織物工場【東郷織物 宮崎】 匠:谷口邦彦さん
2014年07月19日(土)オンエア
精密な高級絣から現代人の生活に合わせたカジュアルな洒落絣まで、様々なデザインの『大島紬』や『薩摩絣』などを生産する『東郷織物工場』の五代目、谷口邦彦さん。『東郷織物工場』では、『大島紬』の本流の技法を受け継ぎながらも、その伝統技法のみにこだわらず、染めにおいて自然の草木を使う『草木染め』を取り入れるなど、常に伝統とモダンを融合させた革新的な技術を追求しているという。
「ここ都城市の『大島紬』の生産の歴史は、奄美大島で伝統技法を身に付けた職人たちが、戦争で疎開してきてから始まったんですよ。祖父は奄美大島で絣の技術を開発した『大島紬の父』と呼ばれる人物ですから、その技法を受け継ぐウチの工房は、『大島紬』の本流と呼んでもいいのかも知れませんね」。しかし、『大島紬』は奄美大島のモノであると、谷口さんたちの作る『大島紬』はインチキだと思われていた時代もあったという。
「当時から認めないという人たちは相手にしていませんでしたね。そもそも『大島紬』は、時代時代で職人たちが革新的な技術を取り入れて発展してきたモノですから、伝統に固執せず、現代の人の生活に合わせた商品を生産すれば、おのずといつか認められると信じていましたからね。ここ都城市には、そんな新しい技術を開発しようという気風が昔からあったんですよ」。そんな都城市では、『大島紬』に堅牢度や色の深みを与える技法、さらに、『大島紬』特有のてりを抑えた渋い『色大島』の技法が開発されるなど、本場の奄美大島とは一線を画す、独自の発展を続けてきたという。
「自分らしさを出していかないと『東郷織物工場』の個性は生まれませんからね。ただし、いくらバラエティー豊かな色が染められるからといって、安易に化学染料を使うようなことはせず、守るべき昔からの伝統はキッチリと守って生産するように心がけています」。そんな谷口さんには、織物を生産する時に大事にしていることがあるという。
「織物の場合はロットといいまして、同じモノを多く作れば作る程、手間をかけずに収入を増やすことができるんですよね。しかし、ウチでは基本的に同じ柄は二反しか作らないようにしています。二反というのは、織る時に二反分機にかけなくてはなりませんから、最低の数なんですよね。それは、やはり着物は値段が高いモノですからね、全国で何十人と同じ柄のモノを着ている人がいたら、買って頂いた女性に失礼じゃないですか。さらにウチの商品は、殆ど同じモノがないということもウリにしていますからね。ですから、いまだにバッタリ同じ柄の着物を着ている人に出会ったなんて話は聞いたことがありません」。70歳になったいまでも、男性より女性の友だちの方が多いと笑うチャーミングな谷口さん。そんな谷口さんの女性への気遣いや優しさは、商品の品質管理にも表れていた。
「私は織り上がってきたモノを検査するという重要な仕事を任されているんですが、私の検査は『丁寧過ぎる』とよく言われるんですよ。丁寧過ぎるが故に商品が溜り、『早くお金にしなさい』と怒られるんですが、私は値段が高い安いに関係なく、少しでも悪いところがあったら手直しさせるんですよ。普段はいい加減ですが、仕事だけは『まあいいか』っていうのを絶対にしたくないんですよね」。そんな職人気質をもつ谷口さんだが、その職場はいつも明るく、従業員たちの笑顔が溢れている。
「良いモノを作ろうと思ったら、きちんとした設備を完備するなど、環境作りが大事ですよね。私はお客様にも同業者にも職場を解放しているんですが、見られて褒められることで従業員たちのモチベーションも上がりますし、何より同業者に見られても絶対に負けない技術を持っている自信がありますからね」。そんな谷口さんの仕事部屋には、いつも大好きなジャズの音楽が流れているのだが、その座右の銘は『好きなように楽しくやっていく』という、何とも谷口さんらしい言葉だった。

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